21 笠地蔵―笠の代―

 むかしあったけど。
 じじどばばいだっけど。そして一生懸命で笠を作った。じじとばば二人で掛っ て笠作って、六つ出たから、
「じじ、町さ行って、こいつ売って何か食いものでも買って来て呉ろ」
「よかんべ」て言うんで、じさま、その笠六つ背負って出かけたところが、途中 まで行ったら大雨降りになった。ほして町まで行って売って来(こ) んなねと思って 行ったところが、道傍に地蔵さまが六つ立ってだど。雨に、頭から何にもかぶら ずに、ずぶ濡れになって、じゅぐじゅぐと濡れっだもんだから、ああもったいな いと言って、その笠を全部地蔵さまさかぶせてしまったって。そして町さ行かな いで空身(からみ) で家さ帰って来たって。そして、
「ばば、ばば、おれ、笠売って何かうまいもの買って来っかどていたな、あんま り可哀そうだと思ってみな、その笠をかぶせ申して来たんだ。んだから何も買っ て来ないげんども、菜っぱ汁で我慢して、また一生懸命で笠拵って、こんど買っ てくるようにすんべ」
 そうしたらば、
「ああ、ええことして来たな、何にも気にすっことないから、お粥でもすすって、 早く、今夜寒いから寝んべ」
 と言って、床に着いたど。そしてトロリと一眠入りしたと思ったら、何か向う の遠いどこから音がして、
「はて、何だろうなぁ」
 と思っていっど、だんだん近づいて来たどこ聞いたら、大勢の台持(だいもち) (車)が来 た。そして、
「ヨイトモショ、ヨイトモショ」
「はて、何の音だかなぁ」と思って何を引張って来たのかなぁと思って…。だん だん近づいて来たら、
   じじぁ家ぁどこだ 笠の代を引いて来た
   ああ、ヨイトモショ ヨイトモショ
 と音するていうんだな。
「はぁてな、何だろう、今頃あんな台持率いて、じじぁ家どこだて、おら家(え)さ 来んであんまいか」
 もう、びくびくして寝っだ。そうしているうちにだんだん、「ヨイトモショ、ヨ イトモショ」と音が大きくなって来たんだど。
「じじぁ家ぁどこだ、まだまだあっちの小屋だ、笠の代を率いて来た、ヨイトモ ショ、ヨイトモショ」
 て、だんだん近づいて来たていうんだ。ほうして先に立てた奴ぁ、
「ああ、ここだ、ここだ。この家だぞ」
 て言うんで、じじの軒場さ来たていうんだな。
「さぁ困った。何事起きるんだろう」
 と思っていたところが、
「待て、待て、梯子ないか」
 どかて、いたけざぁ、軒場さ梯子かける音したと思ったら、高窓がらり開けて、 そっから何かドドドドーと家さ放り込んで、「さぁ帰れ、帰れ」て言うもんで、引 き上げて行った。さぁ、じじとばばはぶるぶるふるえて恐かなくて…。
 まず遠のいて行ったから、「ばば起きてみろ」「じじ起きてみろ」「んじゃら二人 一緒に起きたらええがんべ」
 て言うて、起きて灯(あか) しを点けてみたところが、それぁ大判小判がごっそりと、 そこさ投げ込まれていた。
「ああ、じいさんじいさん、お前、さっき地蔵さま困ってっどこ見て笠を上げて 来た、その笠の代を率いて来て下さったんだ。こんなありがたい、ほだから困っ てる人があったらそういう風に尽くしておくと、こういう御方弁が来るんだからな」
 て言うて、
「なるほど、これぁええこと来たな」
 て、一生安泰で暮らしたけど。どろびん。
(宮下 昇)
>>米沢市簗沢の昔話 目次へ