7 牛方と山姥

 空屋があったから、魚売り泊まった。魚売りは売れなくて売れなくて、ほうし て困って行って小屋見つけて、そこさ泊まっていだった。そうしたところぁ、
「うう、寒い寒い、さむい」
 て、山姥、これは年寄った山姥入って来た。そして、魚(いさば) の匂いかいで、
「うまい匂いすんな」
 て言うもんで来たて言うんだ。
「さぁ、こりゃ大変だ、こりゃ」
 て言うもんで、魚売りは魚箱片付けて背負って逃げたど。そうすっどその山姥 後から、
「ほの、魚売り待ってろ、どこまで逃げだて分んねぞ」
 て追かけだって。一生懸命で逃げっけんども、追つかれそうになった。こんど 箱から魚一匹出して、ポェンと投(ぶ)ってやっじど、そいつ、ブリブリ、ブリブリと 皮から何から、五臓から皆食って、そのうち逃げて行くと、また追っかけて来る。 いや、逃げた、逃げた逃げた。どこまで逃げても追っかけて、とうとう川端まで 行ってしまった。ほれから仕方ないから、それから木さ登って行った。そうすっ ど、
「魚売り待ってろ、どっから登って行った」
 て言うから、魚売りは、
「ああ、そこの藤蔓おさえて、そいつ伝わって登って来い」
「んじゃ、こいつかぁ」
 て、藤蔓おさえて、ワサリワサリと登って来たって。そんどき魚包丁箱の中か ら出して、藤蔓スパンと切ったど。ほうしたところぁ、川の中さ倒さに入って行っ たど。ダボンて入って行ってしまったど。
「いや、そりゃよかった」
 と思って魚売りはわらわらと戻って来て、その家さ山姥死んだもんだなと思っ て、こんど二階の梁の上さあがって寝っだ。ほうしたところぁ、帰って来たど。 いや、あの魚売りにかかってひどい目に会った。こんがえな貧乏クジざぁあった もんでない。ほうしてこんどは火焚いて、腹あぶり始めた。ほして燗(かん)鍋かけて、 そいつさドブロクいっぱいお燗して、
「お燗出るまで、どれ」背中でも焙って火焚いて、燗鍋かけっぱなしにして眠て しまった。グウグウと眠たから、こんど屋根から青苧(おの)殻ひん抜いて、そいつそっ と下げてやって、鍋さ入ってツウツウ、ツウツウと、すっかり飲んでしまった ど。ほうしてはぁ、鍋空っぽになってしまった。ほうしたらこんど、
「はて、お燗が出た頃だな」
 ほして目覚ましてみたら空っぽだ。
「なんだ、ちょっこら眠むっているうちに、火の神さま、みな飲んでしまった。 やれやれ困ったもんだ。仕方ない。酒はあと無いから、餅でも焙って食うべ」
 ほしてこんど餅出してきて、ワタシさいっぱい並べて、餅焙り始めた。ほして また、
「焙れるまで一眠入りすっかな」
 て、眠ってしまった。温(あっ)たまって気持ええもんだから、ふうふう焙っだから、 その青苧殻さ刺しては引張り上げ、刺しては引張り上げして、ぺろっと取って食っ てしまった。ほうしたらまた目覚まして見っだけざぁ、
「あらら、また火の神さまが上がってしまった。困ったもんだ。仕方ないから寝 るより他ない」
 て、そして、
「火の神さま、火の神さま、木の唐戸さ寝たらええがんべか、石の唐戸さ寝たら ええがんべがっす」
 て聞いた。ほれから魚屋、梁の上で鼻つまんで、
「今夜寒いから、木の唐戸さ寝た方がええぞ」
「ああ、木の唐戸ええがっす」
 ほうして、木の唐戸さぽんと入って眠てしまった。ほうすっど、魚屋、そっと 降りて来て、こんど燗鍋の大きいなさ、水汲んで来て、お湯ガタガタ煮立てて、 そして唐戸さ錠かけて、キリで孔あけた。キリキリ、キリキリと孔あいだど。
「ああ、キリキリ山のキリキリ鳥ぁさえずる。やかましくて眠ぶられるもんでな い。ホーホー」
 て、中で追ってやった。ほうして、キリキリ、キリキリとええあんばいにキリ で孔大きく開けたどや。こんど湯煮立ったな流し込んでやった。
「あっ、ねずみの畜生、小便ひっかけあがった。シッシッ」
 なて追ってやった。
「なんだこの畜生、熱い小便たれあがって」
 て、いるうちに、段々とじょうじょう一杯入っでやったど。
「あついあつい、あつい」
 て、こん時だと思って、大鍋さわかした熱いお湯どんどん入っでやってしまっ たど。ほうすっど中でバダンバダンと苦しんではぁ、とうとう音立てなくなって しまった。ほうして夜明けてから錠はずして見たところぁ、大きなムジナ、煮立 湯かけらっではぁ、みな赤むけになって死んでいだっけど。どろびんさんすけ。
(宮下 昇)
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