3 猿と蛙の寄合餅

 むかしあったけど。向いの山の猿ぁ、まいど蛙(びっき)のどこさ来て、
「蛙、蛙、あそこの部落の宮下さんの家で大宮講のお年越しで餅搗きすっから、 その餅盗んで来て食うべ」
 て言うたら、蛙ぁ、
「もし、見つかって追っかけらっだら、おら走らんないくて、すぐ捕まっから、 そがなことは、おら、はまらんね」
 て言うたど。そしたらば猿ぁ、
「そがなことは心配すんな。今は餅搗けた頃に見て、お前は宮下さんどこの裏の 池さ、土手の上からジャポンと飛び込んで、大声で、オギャオギャて赤ん坊の泣き真似すれば、それでええんだ。そうすっど、おぼこぁ池さ入ったと思って、み んな外さ飛び出すから、そん時、おれぁ餅盗んで来っから、お前知しゃんぷりし て後から川向いさ来ればそれでええんだ。おれぁ川向いの太い木の下んどこで 待ってっから」
 と言うことに話ぁ決まって、その時を待ってだど。宮下さん家(え)では 大宮講の連中ぁ集まって餅搗き始まったど。流しの方ではアンコやお雑煮作るやら、 いろいろ御馳走、ゴマ餅などこさえる。いやジンダン餅こさえる。
「ほら、あんばいが出たぞ。餅ぁまだ搗けないなが」
 て言うたら、
「もう一搗きだ、それ搗け」
 て言うもんで、餅搗き唄など唄いながら、にぎやかに搗いっだど。その時、裏 の蛙ぁ、「ほれ、今だ」とばかり、土手の上から、池の中さジャポンと飛込んで、 ありだけの大声でオギャーオギャーて鳴き立てた。みんなびっくりして、
「それぁ、ンボコ、池さ入ったぞ、早く早く」
 て言うもんで、一人残らず裏口から外さ飛び出してしまった。なんぼ池探して みても見つかんね。その間に猿ぁ来て、臼がらみ餅背負って、でんでんと逃げて 行った。裏の池ではみんなで池かき廻していたら、岸の方から蛙ぁピッタンコピッ タンコと這(は)い上って行った。
「なんだ、蛙でないか、ただ蛙にだまさっだんだな。早く餅食うべぞ」
 て言うて、来てみたば餅は臼がらみなくなっていたんだど。みな魂消てしまっ て、「なじよすっこんだ」て、大騒ぎになった。猿は川向いの太い木の下さ餅いっ ぱい入った臼置いて、蛙んどこ待ってだど。蛙はピッタンコピッタンコと跳ねて 行って、
「おら、腹へったから、早く餅分けて食うべ」
 て言うたら、猿ぁ、
「ただ分けて食ったんだら面白くないから、この臼、山の上からぶんまくって、
早く拾った者の分にすんべ」
「おら、走らんねから、そんなことしねぇで半分ずつ分けて食うべ」
 て言うげんども、猿は聞かないでどんどん山の上さ背負い上げて行ってしまっ た。仕方ないから蛙はその後、ピッタンコピッタンコと追いかけて行った。登っ て行ってみたれば猿は、
「ええか、まくんぞ」
「待ってろ、まず。一服つけろ」
 て言うげんども、聞くもんでない。
「ええか、まぐんぞ。一、二、三」
 て言うど、まぐってやった。臼は大した勢いでカラカラ、カラカラと山のてっ ぺんから、まぐっで行った。さぁ、猿ぁその臼と一緒に走ったの何のて、それこ そ臼さ一緒になって走って行ってしまった。蛙はなんぼ走ったって、あの通りの 蛙だから、ピッタンコピッタンコと、そんでも一生懸命後から降りて行って、ちょ いと脇見たれば木の根っこさ餅ぁ臼からすっかり吹っ飛んで引っかかっていた。 いや、蛙は喜んだ、喜んだ。こいつぁおれのもんだぞ。て言いながら、腹へった から、その餅、片っ端から食ってだど。猿は臼よりちょえっと早く行って、まぐっ で来た臼見たば、中からっぽだ。さぁがっかりした。またガサガサと大汗で山さ 登って行った。そうして行ってみたら、蛙は餅拾って、
「ああ、うまい、うまい」
 て食ってたど。猿は泣き出してしまったど。
「蛙、おれさも餅ちいと分けて呉ろ」
 蛙は仕方ないから、土喰付いっだどこ切って、「ほれ、食え」
「そげな意地悪れことしねでもっと柔(やっ)こい どこ呉れんだ。たのむ」
 て言うもんだから、
「んじゃ、そら」
 て言うもんで、中の方のやっこいどこ千切って投(ぶ)ってやったれば、 猿の顔面(つら)の 真中さぶっつかって、猿の顔さピタン。
「あつい、あつい、あつい」
 て言うもんで、剥(はが)すげんど、 なかなかくっついで取っで来ね。ほんでもはがし て食った。その後ぁ、みな火傷(やけぱた) ではぁ真赤になってしまった。んで、今もって猿 の顔真赤だ。餅ぶっつけらっじゃ跡だど。こんどは、
「いまちいと、そんなことしないで呉れんだ」
 て言うから、ぐらり後向いた。そうしたらば、こんど猿の尻さくっついた。そ うしたら、「あつい、あつい」て、そいつはがして、猿の尻は真赤に火傷したど。 ほんで今で猿の尻と猿の顔面真赤なのは、そのせいだど。どろびんさんすけ。
(宮下 昇)
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