30 狐に化かさっだ話

 おれ、稼ぎ人 (と) 一人たのんで、親父と三人で田植えしったんだど。午後からな。 ところが夕方にわかな曇り方してきて、頭重たいような雲が出てきて、雷がガァ ガァ、ガァガァなったもんだ。
「そうら、こんなごんではサツキしてらんね。早くあえべよはぁ」
 て、親父だは帰る仕度した。ところが馬がいだったから、馬の餌 もの 、これから行っ て濡っだ体で馬の餌切って食せるよりも、草ひとなぎでも刈って行って、ひょいっ とあずければそれで終りだ。
「せっかく馬持って来たから、ちょっと草刈りして行んから」
 て言うたらば、親父も、
「そがえな時草刈りなどしてんな、危ないから。鎌なのあれば雷落ちんぞ」
 て言うて、二人帰ってしまったのよ。親父だ帰った後、おれぁドーランを出し て煙草一服のんでるうち何でもないのよ。そして鎌とぎして刈りに入ろうとした とき、ピカピカて雷よ。鎌ひょいと田の中さ見えなくなるほど刺したごで。ほし てまた様子見っだら、雷遠くさ行ったようだから、刈り始めた。いや、真暗にな たわけよ。ほしたらちょうど根にな、杉林がかなりあったのよ。
 昼間もくらいような、そこでヒタンヒタンという音すんのよ。山刀 (なた) で木を切る 音、鋸で切る音、木がさけて折れる音が、おれの耳に入ってくるのよ。ヒタンヒ タン、バリバリ、バタンていう音よ。
「さておかしいぞ、今に、この雨降りに、なんぼなんだて、人の家の木盗みに来っ たんだべか」
 て思って、耳すまして聞いっだげんど、聞いていっどき音すねんだな。また草 刈りにかかろうとすると、またガダンガダン、バチバチていう音が、ちょうどそ こに。「はぁ、あの森だ」と思った。
「何としてもおかしい。こりゃ人でない。いまごろ人は居らんね、こんな真暗な な中で」
 て考えたかな、そうすっど体よれて、チンケの毛立った。
「さあ、これは魔物だな」
 と思って、
「いや、こんなどこにいたんでは化かにされる」
 て考えたか、わらわら荷縄敷いて、草を積んで、ミノ着て、鎌を素手にたがっ て出だした。出だしたら後、ピチャピチャ、ピチャピチャて人が来るんだ。おか しいなと思って、おれより遅いのいたべかなと思って見てもいねんだ。
 また歩き出すと、ピチャピチャと来るんだ。なんべんうしろ振り返してもいね のよ。いたような、気味わるいぐなった。わずかに広い、みんな歩く道路さ出て しまった。出たばほっとした。そして家に帰って草を馬に与えて家さ寄った。
(平田幸一)
>>米沢市塩井の昔話 目次へ