29 和尚と小僧むかし、お寺によ、小僧二人と和尚さまと、わずかに離れたどこさ、おばさまもいだってよ。ほうすっど何で物をそのおばさまさばっかりやって、小僧の待遇が大してええぐないがったど。と、小僧は、常がね(いつも)二人の小僧が面白(おもしゃ)いぐないて言うたって。と、何かの拍子に和尚さんが、 「そんな、何も落っでだもの拾わんともええごで」 て、座敷掃きだか何かのときに言うたって。ほしたら一人の小僧つれて和尚さまが米沢さ行って来たって。ほして、 「やれやれ」なて入ってきて、「小僧!」「はい」「煙草入れ見つけねがったが」「ああ、門先さ落っでだっけ」 て言うたど。 「何だ小僧、他人(ひと)がこの煙草入れ落して来た時、拾わねで落っでだけて…」 「おれ、股いで来た」 て言うたど。 「股いで来たごんだら、拾ったらええがったごで」 て言うたってよ。そしたら、 「和尚さま、先度な落っでだもの拾うなて座敷で言いやったべ。んだからおれ拾わねで、またいで来た」 て言うたって。 「拾って来い」「はい」「これからそういうことしないで、落っでだものだって拾わなねどき拾わんなねごで」 て言うたど。 こんど、いま一人の小僧つれて、何か用達しに出かけた。そしたら船坂のあたりまで行ったら馬車馬いっぱいそろって行くどこだけど。そしたらその馬、糞(えんこ)やっどこだけど。そうすっど和尚さまの笠、 「和尚さま」 笠をひょいと取って、馬の尻さちゃんと出したずも。そうすっど馬、そんな遠慮ないから、かまわずやったずも。 「小僧!」「はい」「何をする、笠、そんな台なしなことさんないごで」 「台あるっし、和尚さま、先度な落ちてるものは、拾ったてええざぁ、今落ちるどこだから、汚れでいないと思って、笠で受けた」 自分の笠、突出(つだ)さねで和尚さまの笠さ馬の糞つめてしまったど。そしてまず、そこでおんつぁっだど。 こんど、また二人で語っていんな、 「何でもうまいものでも何でも、おばさどさ持って行げ、持って行げって、おらだどさ、ほとんど食(か)せねがら」 そのうち、 「小僧!」「はい」「あの、法事の饅頭、おばさどさ持って行げ」 持(たが)って行ったずも。 「おばさ」「はい」「和尚さま、饅頭よこした」「ああ、ほうか」 「和尚さま来てもええなだげんども、何だか、あの叔母、くさくて、叔母どさ行ぐど胸悪くなっから、とてもくさくて行がんねから、われ持って行げ、なて言うもんで、おれ持って来た」 「ああ、そうか、どこくさいべな」 なて、大した気にもないで、叔母さ居だっけ。 「ただいま」 て言うけぁ、 「喜んでだけが」 「とっても喜んでいだっけな」 食せらんねから、ごしゃげでなんね。ほしたれば、 「和尚さま」「何だ」「おばさ、こげなこと言うてだけな」「何て言うてだけ」「喜んではいたけどもよ、和尚さま、鼻大きくて、何なもんなんだか、高いんだか、大きくて、鼻見っどもらった饅頭もうまくないようだっていだっけな」 こう言うたてよ。 「鼻、そんなに大きいか、おれの鼻、おらだ見っど当り前のようだけども、おばさ見っどそうだど」 こんど気になって気になって、和尚さま仕様ないもんだから、おばさどさ行ってみんべと思って行ったげんど、戸の口どこで考えたど。昔は和尚と叔母なんて一緒に住まんねもんだったからな。「おば、おば」て行んかと思ったげんども、「鼻大きいなて言うたなて」て、一生懸命でおっつめて見たげんど、ゃっぱり元からある鼻だから、なりっこないってなぁ。 「見たぐないて言うのでは、つかんだ方がええ」 て、鼻つまんで、「おば、おば」て行ったじも。そしたらおば、誰来たと思って出きたば、和尚さま鼻ぎっちり押えっだじも。 「この和尚、あんまりなこと言う。くさいから、あのようなくさいおば無いって言うたじ、おれさなの、喰付くことないから、決してこれからおれどさ来んな。饅頭などいらねから、そっけなものいらね。米もいらねし、砂糖もいらねし、何にもいらねから来んな」 和尚さま、シオシオて、また面(めん)くさい(恰好わるい)がど思って、鼻ぎっちり押えて帰って来たど。ほうすっど小僧二人は、 「うまく行ったなぁ」 と思って喜んでいた。そしてはぁ、こんどしばらく、おばさも来ないし、和尚さまも行かねもんだから、何かえ少しずつ貰って食れるようになった。んだげんど夜になっじど和尚さま、酒お燗して、 「ああ、ええ燗だ、ええ燗だ」 て、酒飲むなだと。ほだげんど小僧にむろん飲ませねんだしな、「先さ寝ろ」て言わっで寝ていっど、こんどさんざら酒飲んで、餅パタパタ、パタパタて、当て木さ叩(はた)いて、プウプウて吹くなだど。そうすっど二人で相談して、 「おまえ、おらだ名前、小僧小僧てばり言わっでいらんね。よっぽと大きくなったもな。名前もらったらええがんべ」 「和尚さま、おらだに名前つけておくやい。小僧小僧て、どっち言わっだか分んね。どっちも小僧で」 「はぁ、何名付っだいもんだ」 「おれは、エーカンと名付っだい」 て言うたずもな。 「まだ、ひどいつまらね名前なもんだ、エーカンなて名付っだいのか」 「こんど、エーカンて呼んでおくやい」 「じゃ、和尚さま、おれどこぁ、プウプウ、パタパタと名付て…」 「何だ、そんなめんどうな、パタパタなてが」 「んだ、そいつ、おれ一番気に入ってたもんだから、そうしておくやい。エーカンのこと聞いて、おれの言うこと聞かねでいらんねから、そうしておくやい」 「はぁ」 和尚さま、言うたずも。 また「小僧寝ろよ」、名前などコロッと忘せではぁ、「はい」て寝たずも。また夜になったもんだから、和尚さま始めではぁ、 「ああ、ええ燗だ、ええ燗だ」 て、飲み始めた。和尚さま気ぁつかねで、言うた。「はいはい」、梯子返事して出てきたど。 「なんで、出てきてんなだべ」 て、いるうちに、餅ふぐっできたもんだから、餅上げて、「ぷうぷう、パタパタ」て、当て木さ叩いたど。「ハァイ」なてもう一人の小僧出てきた。 「何だ、寝ろと言うたに、寝もしないで、皆ハイなて、つまらねごど語って呼びもしないな、ハイなて何だ、小僧」 「おら、小僧でないっし、今日から」 「何だごんだ」 「おら、エーカンと名付ったな、エーカンだ、エーカンだて言いやっから、梯子返事して起きて来たんだ」 言うたら、いま一人な、少し間置いて、 「プウプウ、パタパタて言うから、おれ起きで来たんだ」 と、一人で食わんねくてはぁ、三人で分けて食ったって。 したら、こんど酒飲んで餅食って、ただもの食うべと思って、大きな梨ゴロンと一つ和尚さまが脇さ置いっだど。和尚さま、 「丸負けしてらんね、おれも忘せで名前呉っで、忘せたどこは悪いげんど、こんどこの餅も分けたし、酒は分けねげんど、この梨で仇(かたき)とってくれんべ」 と思って、 「われだ二人で、後先き梨つけて歌一つ詠んでみろ、そうすっじど気に入ったように詠めば、梨食(か)せるし、ほんでないときは、見った前で、おればり食うから」 こういう風に和尚さま言うたって。ところが二人考えっだけざぁ、 「んじゃ、二人で一つだごではぁ、ええ、二人で一つだってええごで」 て、和尚さま言うたど。それからエーカンの方、 〈梨一つ、にくき和尚の生首を〉 て出したごんだど。したら、プウプウ、パタパタの方で、 〈とりたくもあるし、とりたくもなし〉 て言うたんだど。そして三人で分けて食ったど。 ほうして和尚さま、つくづく考えた。笠も一台わかんなくさっじゃし、おれ悪れなだから、まず、こんどはみんなで仲よくして、みんなではぁ、分けて食うべはぁ、これから睦まじくして、ええ師匠と弟子になるべなぁて、和尚さまの方で折れではぁ、うんと仲よく暮して、身に勝った小僧だて、うんと小僧誉めたど。 |
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