27 弥七のはなし ―弥彦山の弥三郎婆―むかし、むかし、あるところに、とっても親孝行な弥七と名付ったお兄さんがいだったど。年とった母親と二人暮しで、浜端の人。ところが用達しに行って夜遅く帰って来たってよ。弥七がよ。したらあいにく夕立が降って来た。ほしたら、後ろ、ヒチャヒチャ、ヒチャヒチャて言うから、何だと思ってふり返ってみたら、よれよれの年寄りのおばんちゃが棒ついで、びしょ濡れになって来ったってよ。 「ばば、ばば、なんでそんなに濡っでだごんだ」 て言うたら、 「恐っかなくて、恐っかなくて、一緒に行って呉ろ」 「あまりええ、あまりええ、一緒に歩(あ)えべ、ほんなに濡っでいねで、おら家さ行って、当たれ」 て、連れて来て、当(あ)でだって。こんど、 「泊まるんだはぁ、ばば。おら家にも婆いだもの、ばばと話して泊まれはぁ」 なて言うたば、そのばば、とっても喜んで泊ったって。ところが朝げになって、 「何だ、こっちの家に嫁ないなあ」 て言うたって。 「嫁なてないべちゃぇ、二人扶持食(か)んねなだ、貧乏で」 と。 「早くに親父に死なっで、難儀ばりしてだもんで、借金なのばっかりあって、嫁など来てくれる人いないなだ」 て、ばばちゃ言うた。したら、 「いやいや、この二十五日、嫁連(つ)っで来る。こんな情深い家さ来たことない。みな当ててもらって、干してもらって、泊めてもらって、さぁさ帰る。帰って行んから…」 て行ったげんど、後は何となくさびしいような、恐ろしいような感じしたど。弥七ばばがよ。そしてこんど、二十日になり、二十三日になり、したげんど考えだど。 「ばば、ばば、あげなことはテンツだな」 「ほだな、一晩げばり泊って、身(な)成(り)干してもらったくらいで、あがえなお粥一膳ばり食せだどて、どっから嫁連(つ)っで来られっこんだ、嘘、嘘」 ていだど。そして二十五日になったど。そしてはぁ、 「大根ぐらい煮て待ってっか」 て、大根煮して待ってだど。浜端だから、何か魚でもちいと煮て待ってだど。遅くまで起きっだげんど、何にも嫁なて来ないって。 「寝ろはぁ、テンツだから、あいつぁ、お世辞言うたのに違いないんだ」 て、寝たど。二人で。ほしたらゴロゴロ、ゴロなて、岡立ち来た。 「はぁ、今夜もお雷さま、お鳴りやるな。あの婆泊めた時も濡っじゃったじな」 なて語り合ったけぁ、眠った。ほうしたらば、ゴロゴロ、ピカピカ、ザァザァなて雨降って、バリッとお雷さま落ちた。自分がたの家の前さ落ちた。 「何とこりゃ大変なことになってしまったなぁ、火事になんまいなぁ」 なて。 「とにかく、寒いし、かむな、まず」 なていだげんど、気の毒で気の毒でいらんねもんだから、二人で行灯(あんどん)つけて出て行って見た。そしたら、立派な篭落っでだ。ほして、 「何だべ、こんなもの、こんな立派な篭」 篭開けて、ふたぐって見たどな。美しいムカサリ入っていたど。そして弥七、たまげて、 「何だ、狐の化けものだか」 なて怒って、 「ぶっ叩いて殺してしまう」 て言うたば、 「そがなこと言わねでおくやい」 なて、その嫁、ふるえっだけど。寒くてはぁ。そして、 「当てておくやい」 て言うもんだから、 「当てらんね、狐の化けものなど…」 「狐でない、おれ、弥彦の弥三郎さまていう婆に、大阪の鴻池に嫁(むかさ)って行く嫁だった。んだげんど、弥三郎婆にさらわっで、ここさ落さっじゃなだから、ここにいなければ、おれ殺されっから、何とかして、おれ、ここさ置いでおぐやい。当てておくやい」 て言うのだど。いやいや、とっても身の廻り品など、篭さみなつめて、お金もでっちり持って来たってよ。慈光さすような立派なもの、見たことないもんだから、婆と弥七は魂消て、話聞いたど。そして面(つら)見あわせて、 「二十五日なんだし、こりゃ、ほんじゃ弥三郎て、一体何者だ」 て言うた。 「弥彦山の鬼の使いだ」 てだど。 「それで、おれ、ここから出たたて、どうせ弥三郎婆さまに、ここさ寄こさっだんだから、どうか置いておくやい」 「そんな着物きて、おらえに置かんね」 て言うたらば、 「何でもええから、婆ちゃの衣裳でも何でも着るから、おれに着物貸しておくやい」 て、着物きて、 「よそさ行っても、嫁だもの、どこの嫁になっても同じごんだから、米とがせておくやい、座敷掃かせておくやい」 て、とてもまめまめしく稼いで、そのうち、イワシ取れだんだど。浜なもんだから。したら弥七考えたど。 「なぁ、ほんに金さえあったら、たくさんとれたイワシ買って置いで、そしてまた明日にとれないじど、そん時高く売られっど借金も済(な)されるし、いまちいと楽な暮しされるんだげんどもなぁ。こんじゃお粥食って生きてるばっかしだず」 て喋ったの嫁聞いでで、 「お金だら、おれ持ってだから、ええほど買え、こいつみなお金だから」 て、その嫁。銭いっぱいもってだ。そんでイワシたくさん買い求めて、そのうちシケ来たりして取れないこともあって、とってももうかったってよ。そしてその嫁さん来てから、金持になって、とっても睦まじく暮していだったど。そんでちっちゃこい親切が大きい幸せになったど。どろびん。 |
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