26 猿神退治

 むかしむかし、ある村に、とっても荒らさっで、唐黍(とうきび)だの豆だ、作物を荒らされる。それで困っていだって。したら、こんど、だんだんとお庄屋の家は、サンピョーシと名付った家だったど。そこのサンピョーシの家のかぁちゃんが、腹にイボが出たど。そんなもんで、こんどぁ、イボ取りに立派に化けて、むじながよ、
「サンピョーシ、いだか」
 なて言うた。そしたら、「あい」
「かか出せ、へその下の三つイボ、ぜひとも貰って行かんなね」
 なて言うて、困ってはぁ、かぁちゃん出て来ねなだど。恐っかなくて、ふるえでいっじど、こんど旦那さんが気ぁきいで、お酒を御馳走したり、餅搗いて、たまには餅食せたり色々な魚を食(か)せたりして大事にすっど、
「今日のところは勘弁して行ぐげんども、そのイボは、誰もへその下さイボなど三つ出る人いないから、ぜひとも珍しいもんだから、おれが貰って行かんなね」
 て、しばらく経(た)つとまた来るってよ。腹減った頃。ほうしてその村で作物(さくもの)は荒らされるという。お庄屋の家では困らせられるという。大きに困っていた。したら一人の山伏が山越えて来たげんど、どうしたわけなもんだか、足は痛むし、日は暮れるし、
「今晩は野宿だはぁ」
 なて、野宿した。ほしたらにわかに、何処となしに、夜になったらにぎやかなような声した。何だべなぁと思っていだ。ほしたら今度はツヤツヤ、ツヤツヤと集まって来て、足音するって。そして丸く環作って、
「さぁ、踊るべ、踊るべ」
 なて、木のタッコなど持(たが)っている人に、むじなの腹鼓て、腹太鼓打つ。ポンポコ、ポンポコなて太鼓叩き始めた。そうすっど大将むじな、先に立って、
「みんな踊れよ」
 なて、環になって、
「サンピョーシぁ、おかた、へその下の三つイボ」
 なて、大将むじな言うたって。そしてこんどぁ、ちっちゃこいむじな、やっぱりそう言うて腹叩いてな、
  ポンポコポンポコ ポンポンポン
  サンピョーシのおかた
  へその下の三つイボ
  取るて言うじど 恐っかなかって 面白(おもしゃ)い
 て言うなだど。そうすっどこんど、大将むじなは、
  恐っかないものには 何でもない
  甲斐の国の三毛四毛
  越後の国の文三猫
  そればりぁ 恐っかね
  お生命たまらね
  お生命たまらね
  ああ ポンポコポンのポンポコポン
 て踊っていだんだど。何回も何回も繰返して言うもんだから、その山伏、すっかり憶えてしまったごんだど。
「何かこの先に、これぁ、人の名だべ、サンピョーシなて、変な名前だげんどなぁ」
 と思っているうちに、山越えて来たら部落があったってな。そさ来て、
「ここにサンピョーシという人いだか」
 て言うたば、お庄屋だて言うたって。
「んじゃ、そこさ案内してけろ」
 て、案内してもらったて。そしてそこさ行って語ったど。
「昨夜(ゆんべ)、おれ野宿したら、こういうこと語って、むじな踊りしったって。ほんで家さそんな者来たことあっか」
「むじなや狸来たことないげんども、役人がイボとる、イボとるて来て、変なことには御馳走さえしっど帰って行ぐごんだ。イボとんねで帰って行ぐ。困っていたごんだし、作物荒さっで大変困る」
 なて言うたら、
「何だか、甲斐の国の三毛四毛て犬だど、越後の国の文三猫って、そいつ二人は恐っかないから、生命たまんねて語っていだから、そいつでも連れて来て、むじな退治したらどうだべ」
 て、その山伏言うたど。それで村で相談して、ほして越後の国さ行って文三と名付った猫、村から行ってもらって来たごんだど。それからこんど甲斐の国の三毛四毛と名付いた犬借りて来たごんだど。そしてこんどそこもお願いして連れて来て、魚なの食わせて、そのうち穴探したんだど。どこさ巣食っているもんだべ。
「山で踊っていっこんだらば、一山越えたどこで聞いたって、山伏言うもの」
 て、山伏、先に立って、みんなで探したら、やっぱり出たり入ったりしたようなどこあったど。そこさ行ってみんなで掘ったど。鍬だの鎌だのでな。そしてそこさ猫と犬置いてね、よっぽど広くして、犬と猫入って行ったどな。代りによ。ほうしたげんど、随分噛み合う音ぁするげんども、なんぼ聞かねったって、穀(ごく)気(け)を食ってねものは毛抜けるもんだどな、噛み合いすっど、むじなの毛抜けて、そして犬と猫の口が一つになって、代りに出てきて、毛ば取ってもらわんなねなだけど。息つかんねぐなっから。
 ほして、とうとう、むじなもいっぱい居たべしするもんではぁ、五分五分で、みな外さ出てきて死んでしまったけど。ほんでこんど作物も荒さんねぐなったし、うんとええぐなったげんども、とにかくありがたいごんだから、これを明神さまとして祀ったらええがんべてな、猫塚、犬塚建てて、そしてお中にお明神さまにして祀ったのが、高畠の「犬の宮」「猫の宮」だど。どろびん。

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