25 有馬の殿さま

 有馬のお殿さまが病気になって、お湯さ御入湯にござったど。そうしたげんど、どうも思わしくなくてよ、何だか危ないべて言うことで、また高札立てたど。
「殿さまのお気に入ったことを、話であれ、むかしであれ、何手(て)芸であれ、何であれ、殿さまの気に入るようにした人さ、望み次第の御褒美出す」
 て、札立てたど。ところが賢い人がいてよ、そして自分が出られねもんだから、正直な人さ教えたど。そしたら、
「有馬さま、命(いのち)ありまの湯に出でて、病(やま)いは梨の花と散るらん」
 梨の花の盛りであったど。そう詠んでこいて言わっだど。その人、恥止(しょうし)いもんだから、咳(しわぶき)したり、咳(せき)ばらいをしたり、そんな真似ばっかりして、ほんにふるえ声で、
「ありまさま、いのちは梨の花と散るらん」
 なて言うてしまったど。そしてその人縛らっじゃて。したもんで、言うてきた人の妻(かか)が、利巧な妻で、亭主助けねでいらんねがらってよ、こんどまた申出たど。
「こんど、女の人だ」
 て言うもんで、殿さま、「寄せてみろ」なて。ほしたら百姓のつまらね女いだったど。ほして、「ほんじゃ、おれ詠んでみっから」
 て。
「有馬さま、命ありまの湯に出でて、病は梨の花と散るらん」
 て言うたごんだど。したらとっても喜こばっで、ほしてはぁ、その人、御褒美でっつら貰って、亭主の罪も許すからて言わっで、大した有馬さまに気に入った歌だどてはぁ、じきに病気も治ってしまったど。

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