21 嫁と祭文

 姑は姑根性を出して、そうして、
「隣の嫁など、利巧なもんだ、感心すっどこある。あんで昨夜(ゆんべな)なの祭文聞いて、とても泣いっだけほに、おら家の嫁なんていうど、祭文など聞き分ける術(すび)など一つも知しゃねもんだから、分かんねもんだもなぁ、隣の嫁は一人前の嫁だ」
 て言うたって。
「はつけな祭文くらいなこと、誰だて聞かれんべちゃえ」
 嫁、口聞いだけど。
「ほんじゃ、よっく聞くどええごで。今晩がおらえの家で語っから」
 て言うたど。
「聞くべ、ほんじゃ」
 その嫁、捨て言葉語っていたけ。そしたら祭文語り来て、デレレン、デレレンなて言うて、「さるほどに…」て始めたど。祭文よ。ほうしたら嫁は、「オオー、オオー」て、隣の嫁の上段(うわだん)になる気で泣いだど。
「なんだまずはぁ、おら家のおっか、まずそのような大きい音立てて、何だて泣いでいっこんだ」
 て。
「泣く術(すび)も知しゃねなて言うもの、泣いっだごで」
 て、怒っじもの。
「なんだどて、そんがえに泣くことあんめぇちゃい。何そんがえに、始まっどこだもの、そんがえに泣くことあんめぇちゃい、まだ」
 て言うたら、
「さるほどに、て、猿火(ほ)所(ど)さ入ったら、なんぼか熱いがんべから、おら、泣いっだんだ」
 て言うたど。その馬鹿嫁よ。んだから馬鹿にも一理あるこんだごで。
 こんど負けたもんだから、お姑は、
「なぁ、隣の嫁など、一晩げにちゃんと頭巾こしゃってかぶせたもんだ。ほに。おら家の嫁なて、子ども産すときはよく産したもんだ。頭巾もこしゃってかぶせられないなだも、習って来るんだ、隣の嫁に」
 て言うたど。
「んだら、よこしてみろ、布地(きじ)」
 て言うて、意地たけでも頭巾なて、いっこう恰好にも、形にもなんねがったど。三晩げもいじったげんど、形になんねど。そしたら仕様ないから、嫁稼ぎに行ってるうちに、おっか隣の嫁さ行って頼んだば、夜ちゃんと拵って、おかちゃにあずけてよこした。
「隣の嫁など、われ、三晩げもかかって縫えねぇな、ちゃんと縫ってよこした。ほんに隣の嫁はできた嫁だもんだ」
「あたり前、決まっていんべちゃえ、ひとが十二時、一時まで、三晩げかかって、柴八束焚いたんだぞ、そして縫ったんだも、その後縫うのは、何造作ないから」
 て言うたんだど。んだから、馬鹿にも一理あるって。

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