16 天狗の生き針

 とっても聞かず野郎で、親父に折檻さっで縛りつけらっだんだど。山の木さ。
 そうしたら夜中ごろになったら、すごい風が、さびしい風が吹いて来たど。ほして今度、
「何だべなぁ」
 て思ったら、バタバタ、バタバタ羽ばたきして天狗さまだったど。そして、
「何だ野郎、こがえなところに何しった」
 て言うたら、
「おれ、大した悪れごどしねげんど、おどっつぁ縛ったもの」
「可哀そうだ、おれ解いてやっから」
「お天狗さま、お天狗さまかぶっていだな、何よ」
 て聞いたば、
「これは聴耳の頭巾ていうもんだ」
 て教えたど。と、
「この頭巾かぶっじど、烏(からす)が何て言うてだも、烏が何て鳴いてるも、みんな分かる。烏が『あしたあの家の人が死ぬ』とか、こうだどかて鳴いてるの、みな分かる」
 て言うたど。
「ううん、おれに貸してみねが」
 て言うたって。
「あまりええごで、かぶってみろ」
 て、かぶらせて貸したど。それから針も。「こいつぁ生き針で、死んだり怪我したりしたどこさ、チュクッと刺すど、死んだ人も生き返るし、怪我した人だど、じきなおるもんだ」
「ほんじゃ、ここんどこさ置いっだな、何だ」
「これは羽根だ」
 て。ほうして、
「羽根、なじょして飛ぶごんだ」
 て言うたば、
「コラコラ、コラコラていうど、ずうっと飛んで行く」て。
「降ちっどきは…」
「オツツェンがツェンて言うじど降ちる」
「んじゃ、その羽根貸してみろ」
 て、羽根も針もみな借りて、
「こういう風にか、コラコラ、コラコラ」
 て飛んで、
「んだ。そういう風にだ」
 て、お天狗さま見っだ。したらコラコラ、コラコラ、
「野郎、降ちてこい、たいがいにして降ちて来い」
「コラコラ、コラコラ」
「たいがいにして、降ちろよ」
 なんぼ大きい声出しても、コラコラ、コラコラて行ってしまった。ほうしたら困った。羽根なしになってしまった天狗。そしてずうっと行ったらば、大きな村さ出た。そこのお庄屋の娘死んだなて言うこと聴耳の頭巾から聞こえたど。そんでそこで、「オツツェンがツェン」と降りた。
「この村で誰か死んだ人いたか」
 て言うたらば、
「お庄屋さまの一人娘逝くなって、やんやんていだどこだ」
 て、みんなお悔みして助(す)けっだ。すっどその家さ行って、死んだ人も生かされるなて言うもんだから、たまげてはぁ、みんな上座さ直して、
「ほんじゃ娘んどこさ行って」
 なて言うもんだから、奥座敷さ行ったって。そして何かその針を片腕さ刺してみたど、ほしたらばピクピクて、またこっちの腕さ刺したらピクピク、ピクピクて動いたって。そして構わず見っだら、「苦しい」なて、生きだど。そうすっど喜ばっで喜ばっではぁ、こんどはその家の聟になって呉ろて言わっで、聟になったて言うたな。どろびん。

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