2  南の山の馬鹿聟 ―馬の尻に掛図―

 南の山ざぁ、馬鹿ばっかりで、そん時、平人(ひらびと)から嫁もらったら、唐傘さして雨降りにきたら、
「あがなものさすような嫁もらって、なじょにすんべ」
 て言うたってよ。そしたら、戸の口まで来たら、すぼめだってよ。
「いやいや、魂消て、魂消て、とっても魂消た」
 てよ。
 ほれから今度ぁ、嫁の家さ招ばっだって。その南の山の兄(あ)んちゃよ。そしたら嫁に教えらっじゃど。
「おらえの家で普請したから、座敷こしゃったから、んだから、『立派だごどなぁ、ええぐ拵(こしゃ)って出来たごど』て、こう言うて誉めろよ」
 て、嫁に教えらっじゃど。その息子がよ。そしたら、「はい」て行ったど。ほしたら誉めたずも。何か大事な床のどころさ、ちょこっと傷あったど。んだもんで、
「あそこさ掛図かけてやっどええ」
 て、嫁に教えらっじゃもんだから、
「立派にできたなぁ、ええあんばいにできたな」
 て言うて、
「ここさ、こういうシミあるもんで、こいつばり気の毒しったのよ。直してもらわんなね」
 て言うたって。したら、ほの娘呉っじゃ家で、とても感心したって。
「南の山、みな馬鹿だなて言うげんども、いよいよ娘呉っでみっど、何にも馬鹿などこないから、おらだ掛図どこ考えねで直してもらわんなねと思ってだ」
 こんど、
「馬も買ったから見て呉ろ」
 て、見てもらったって。したら耳など撫でたり、生きもの好きなもんだから、引っ立てたりして見っだけずも。尻尾など見っだけど。そして最後に尻ひったぐって見だら、尻に穴あるんだ。そうしたら、
「ああ、こりゃ、ほんにええ馬で、言うことないと思っていだげんども、ここに傷あるもなぁ」
 て言うた。ほして、
「ここさも掛図かけたらええべ」
 それが馬の尻さ掛図ざぁ言うもんだ。それでばれてしまった。やっぱり馬鹿だど。

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