17 名医

 むかし、すばらしい名医がいだったど。そこさ、ずうっと、あまた患者のあるるうちに、何だて血色のええ、体格のええおっつぁんが来たど。んで、医者が、
「お前、いったい、どこ悪れんだ」
「いや、先生。先生ば、まず、名医とうけたまわって、ずうっと遠くからやって来たんだ。先生は泥棒も治して呉だんねが。夜な夜な盗癖がおきて泥棒に行くのを、セキ出る薬盛って呉で、それ呑むと泥棒に行かんねていうことで、治してけだていう話うけたまわって、遠くから来た。実はおれはまず精力がつよくて、かあちゃんに嫌わっで、何とか弱くなる薬ないべかと思って、先生は名医だとうけたまわって、十何里も向うから、先生さお願いに参ったんだ。治るもんだべが。ほの代り、明日から稼がんねぐなるはぁなていうほど弱っては、これまたうまくない。何とかそこだけ弱る方法ないべか」
「いや、ないわけでもない」
 て、その医者言うたど。
「なぜするもんだ」
「実は、ほの、そういう風な衝動にからっだ時に、耳くづりをもって耳かすを取れ、ほうすっど、まず一刻しのぎにはなっから」
 て、そういうこと教えた。ほして家さ帰って行って、そういうときに耳かすほじくってみたれば意外とええあんばいだったていうんだな。
 んだから、やっぱり名医なていうな、何でも知ってる。すばらしいもんだていう評判になったて。んでその精力があんまり強すぎたのも、簡単にうまくやってくれたという名医だったど。どんぴんからりん、すっからりん。
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