14 田舎者の金もうけ

 むかしむかし、ある部落に非常な金持があった。
 ところが、その村は分家出してはいけない、これより耕地再分割すっど、共倒れにならんなねから、分家は法度だと、なんぼ金があっても、何しても、舎弟は聟に行くとか、江戸の方どか大阪の方さ行ぐどか、出ていかんなね。こういう風だった。
 ところが、あるとこの金持の息子は、非常に利発な息子で、賢こくて、
「んだら、おれは聟には行かない、家さ、まずある程度手伝うから」
 ていうわけで、手伝ってるうちに、また金持になってきたわけだ。ほしてこんどは、その金持って、
「おれは、まず、大阪さ行ぐ」
 こういうわけで、言うたら、親たち、親族の人たちは言うたって。
「大阪や江戸はとんでもないぞ。金少しなの持って行ったって、たちまちゴマのハエなていうな()っす。ほれから、生馬の目も抜くていうたところだ」
「いやいや、そういうどこだら、なおええんだ」
「はぁ」
「いや、おれはその裏を行くから」
 て、そういうわけだど。
 大阪さ行って、何始めたがと思ったら、古わらじ買い始めた。履かんねぐなったわらじ買う。ほだな、みなわんさと持ってきて、売ったわけだど。何すんべと思って、みんな横目つかして見っだれば、ぶん投げておくきりだど。
 ほしてこんど、古股引買うなて始めだんだど。
「はぁ、古股引……」
「つぎはぎだらけな、一番ええてだど」
 はいつ、何するって横目つかして見っだれば、はいつも何もしねで、ぶん投げておくだけだ。
 その次には、井戸買い始めたど。
「どうせ、あの人は買って投げておくんだべ」
 て、井戸、みな売ったど。大阪中の井戸みな買ってしまったんだど。
「安いったって、ええ。どうせ、ほだな持って行かれんまいし」
 て。
 ところが、次の日から、二、三人ずつ、はいつさ番つかせたわけだど。水使うべと思っても売ったもんだから使わんねずも、ほりゃ。したけばこんど、何とも仕様なくて、井戸を返してけらっしゃいていう人から、水売ってけらっしゃいていう人から、買い返すていう人から、いろいろ出てきたって。そして今迄の五倍で井戸売ってしまったんだど。ほして大金もうけだったって。
 んだから、田舎者だて、必ずしも馬鹿ばりでないて、昔の人言うたって。ほの人は町の人の裏行って、ほして金もうけしたって。どんぴんからりん、すっからりん。
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