12 桐という武芸者と熊

 むかしむかし、桐という武芸者がおった。
 ところがたまたま山道歩いったらば、向うからすばらしい大熊が現わっだ。ほこで、格闘になった。ほして組んずほぐれつの格闘になった。とうとう桐という武芸者が熊を組み伏せて、そして腰から短刀出して、熊にとどめを刺してと思ったげんども、
「このぐらい大熊で、このぐらい力ある。これはここら辺の主であろう。殺してしまってはおしい」
 ていうわけで、桐がその熊を放してやったど。んで、ほの、放してやるとき、
「おれは桐ていう者だ。桐ていう人の身内や、親族は強いぞ」
 こういう風に教えてやったていうんだな。また桐という人も、熊を組み伏せてきたことを、村人に語ったわけだ。んだればというわけで、村の人が熊に行き会うど、
「おれは桐の身内で、桐の親族だ」
 ていうど、熊がこそこそ、こそこそ逃げて行んかったって。熊と行き会ったときは〈桐〉、雷さまと行き会ったときは〈桑原〉ていうたもんだど。
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