8 赤山の湛重(風呂
むかしとんとんあったずま。
楢下では湛(重(風呂ていうんだげんども、赤山では湛重温泉ていうているのよ。それは丁度、座頭渕ていうどこの向いに、水溜りがあって、松の木などあって、景色ええどこあったど。
赤山の湛重ていう人が、上山さ用足しに行って、夜中来たら、そこまで来て、コヤコヤ、コヤコヤて、何だかにぎやかだようだど。ちょっとのぞいたれば、とんでもない、そこには温泉旅館が出ておったど。
「いや、温泉旅館なて、いつの間に。行ぐどき気付かねがった、こりゃ。不思議なもんだ、早いもんだ」
て、ながめっだって。ところが、今日旅館を開業したてだど。
「今日は始めでだから、上山の芸者、総上げだ」
てだど。そして芸者総上げしてやってだど。
「入場料は無料だ、どなたも入んなさい」
て、こういうわけだけど。
「いや、これはええどこだ」
ていうことで、鼻唄まじりに、そこさ行ったわけだ。
「あらら、面白い人来た。こっちゃ来て、入らっしゃい」
なていうわけで、上山から、いろいろ、魚よ豆腐よ、油揚げよて、いろいろ買ってきたもの、そこさ置いて、裸になって、頭さ手拭上げて、
「いや、少しあついようだ」
熱いなでなくて、本当は冷たいのっだなね。霜月の十一月頃のことだから。
「なんだ、おっつぁん。こだな湯さ入らんねごんだら、男て言(んねっだな」
なて、芸者衆だ言うんだど。
「今日は、始めたばりだから、男女混浴だ。今日だけは無礼講だ。誰さ触っても誰さ何してもええ」
ていうことだけと。一生懸命芸者さ触っどこだも。ほれ。
ほだえしてるうち、知らず知らず夜が明けてきたんだどはぁ。
ところが、ほれ、朝仕事に出はった人は、
「何だべ、どこの親父だべ、山の中、裸で頭さ手拭など上げて、水溜りさ出はったり、入ったりしている」
木は皆、芸者に見えるわけだずま。ほれ。ほして、「ほっ、ほっ」なて芸者さ、してかかっていっどこ見えるわけだずも。して、ねつく見だれば、湛重さんだずも。
「何だ、湛重さん、お前、何しったの」
ていうけぁ、だんだぇ目さめてみたれば、水たまりさ、着物脱いで、丸裸で頭さ手拭上げて、芸者だ、いっぱいいたと思ったな、立木だったずも。
「いや、こりゃ、おれは狐に化かにさっだんだ」
ていうわけで、買物したの、魚も豆腐も油揚も何もないがったはぁて。ほしてほこば、他人が〈湛重風呂〉ていうたもんだど。どんぴんからりん、すっからりん。
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