27 牡丹燈篭親もなし、兄弟もなし、たった一人の 男ぁいて長屋さ夫婦で暮している男ぁい だったど。そうしたところが、かまわず 家の中で勉強なのばりして、外さも出 (で) き ね人なもんだから、「旦那、旦那、花見に行ったらええでな いか」 とすすめたば、喜んで花見行ったごん だど。そしたば、まずええ女に行き会っ て、その女は殿さまの娘であったって。 その殿さまの娘がどこさも出 (で) きないのが、 ちょっと出きて、ええ男見たもんだから、 その男をもう一度見たいと思っているう ちに、病気して死んだごんだずもなぁ。 その男も、女から、今一度会いたいと いわっだような気していだったど。 あるとき、雑魚とりにつれて行かねか と、妻がいうたところが、 「あまりええがんべ」 と、酒なの肴なの作って行ったそうだ。 酒を飲んで眠ぶたそうだ。そしたらばそ の殿さまの塀越えて、その女さ行ったと ころが、その殿さまに見つけらっでお叱 り受けて、 「まず、娘を殺さんなね」 というもんで、殿さまは刀をのし上げ たもんだから、 「いや、おれぁ悪いのだった。おれぁ悪 いのだった。おれどこから先に殺して呉 (く) ろ」 といってるうちに、娘の首を落さっで、 ああっと音立てたところが、 「なんだ、旦那、何夢みた」 と、起さっだごんだど、舟の上で。 「ああ、首は落ちてないか、首ぁ落ちて いねが」 「なに夢見たごんだ」 「いや、何の夢でもないげんど、首ぁ落 ちてないか」 というもんで、それから春になんだか、 娘はそんとき、 「何とも、手の及ぶこともできなくて、 とうとう死んだ。一週間ももよったら、 乳母どもみな連れて行ったんだが、死ん だ」 ということを聞きつけたごんだど。男 は、 「ほんじゃ、あの夢みたの、死んだどこ だったんだかなぁ」 と思って、 「すまなかった。もう一度行き会いたい がった」 と思っているうちに、盆の十三日の晩 げ、縁さ涼みに行ったど。そしたば、カ ラン・コロン、カラン・コロンという音 すっから、のぞいてみたら、行き会いた いという女だけどな。乳母つれて、文金 高島田にして、燃えたつような着物きて、 乳母に牡丹の灯篭持 (たが) かせて、カラン・コ ロン、カラン・コロンという音立てて、 「ああ、お露さんでないか」 と、一言かけだど。そしたば、 「あらら、お前と行き会いたいと思って ずっと探したとこだ。こっちの方にでも いたかと思って、いやいやええどこで 会った」 というもんで、 「また晩にでも来たらええかなぁ」 「ええ」 というたもんだから、毎晩げええ女 来っこんだど。そして、 「何だ、旦那と女の話聞えるようだ、ま ず女などいない旦那だから」 不思議なごんだと、おじさんがそっと 戸開けて見に来たど。そうしたところぁ、 まず幽霊ざぁ、あのことだべと思ったと ころが、身さ、寒気立って、動かんねく なって、白いというんだか、青いという んだか、女二人いたごんだけど。そして 旦那ばり語り語りしてっこんだど。 「帰ってまた明日の晩来っからな」 というて、立って行くどこ見たば、足ぁ 見えないごんだど。 「さぁさぁ、これは幽霊というもんだべ」 と思って青くなって、 「まずまず、とんなもの見た。旦那さ女 の音すると思ってたら、幽霊が旦那どさ 来った。なんとしたらええべが、旦那ど さ行って話しんなね」 と思って、旦那さ行ってみたば、旦那 はやつれて、まず幽霊のようになってだ ごんだずまな。 「旦那、お前のとこさ女来んべぁ」 「来る、毎晩げ来るのだ」 「殿さまの娘など、とっくに死んだのだ。 あれは幽霊だ」 といっても、何とも聞かねごんだずも。 んだから、嘘だか本人だか、ととさい和 尚さまに見てもらって拝 (おが) 申してもらっ て来んべと思ってやったところが、やっ ぱし、 「もう一週間もおそいじど、幽霊に生命 とられる」 と教えらっだど。こんどはさびしく なって、 「幽霊離れるように拝 (おが) 申して、ととさいお札、家のぐるりさ貼って、戸開かない ように貼って、家さ幽霊寄っ付かんねよ うに、お守りやるから、一生懸命で、と とさいお経をあげておけ」 と教えらっで、立って来っどき、毎晩 げ持 (たが) って来る牡丹灯篭は、雨ざらしに なって、お露の墓どさあったど。 |
(海老名ちゃう) |
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