11 三枚のお札和尚さまに小僧はいたな、夜、栗うん と落ちっだとこの夢見たそうだ。そして、「和尚さま、和尚さま、ゆうべうんと栗 は落っでで、たんと拾われるとこ夢見た。 行ってみたいから、どうかやっておくや い」 「いや、山さ一人で行くもんでないぞ」 「いや、そんでもあの栗、目に見えるよ うだから、やっておくやい」 「ほんじゃらば、なじょなもの山にいね ざぁないから、このお札、山出ろという と山、川でろというと川、火でろという と火ぁ出る。こいつはととさいお札だか ら、これを持 (たが) って行けよ」 といわっで行ったら、いやいや落ちて る。やっぱし夢見たように落ちっだごん だもんな。喜こんで拾っているうちに、 秋なもんだから、夕暮になって帰ること 出 (で) ないから、 「こりゃ何としたらええがんべなぁ」 と思ったところぁ、向うに灯りは見 えっけごんだど。 「あそこさ行って一晩げ泊めてもらうべ なぁ」 と思って行って、「今晩わ」というて 入って、ばさまいたけずぁ、 「栗拾いに行って、とにかく栗拾ったげ んども、暗くなったもんだから、一晩げ 泊めてくろ」 というたば、 「ああ、ええどこでない、泊れ。ほんで もおら家には飯 (めし) どてない」 「おれぁ、栗拾って来たの食うから、ま ず泊めてくろ」 というたば、 「あまりええから泊れ、そこさ寝てんだ」 と。そして眠 (ねぶ) たふりして見っだら、そ この戸棚の中から、肉など出してきて、 焙って食ってだところ見て、 「さぁさぁ、これは何者だ。鬼婆ざぁこ んなもんだ」 と思って、 「おれぁ便所さ行きたいから、便所さ やっておくやい」 というたら、 「はぁ、そこさ小便なのむぐさっては 困っから、ほんじゃやんなねごで。ほん じゃ待ってろまず」 と、綱つけて便所さやらっだそうだ。 そうしたところぁ、綱とお札とぎじっと つないで、 「おれは逃げて行んから、『まだだ、まだ だ』ということ」 と、そのお札に頼んで、わらわらと逃 げて行ったそうだ。そしたば、あまり帰っ てこねもんだから、 「小僧、小僧」 「はい」 「まだだか」 「まだだっし」 なんべん婆さま呼ばっても、 「まーだだ、まーだだ」 というて、来っざぁない。怒って婆さ ま綱引っぱったどこぁ、ガドンガドンガ ドンというから、何もんだと思ってみた ら、便所さお札くっついて来たわけだど。 「野郎は逃げたな、なんぼ逃げたって分 んね、おれは食ねうちは承知しないぞ」 なて、まずまず走った走った。そうし たら、まるで鬼みたいになって走って来 たから、仕方ないから、 「砂山でろ」 というもんで、後さお札落したら、ツ ルツルと登らんねような大きな山できた。 そいつさちょっこら登られんまいと思っ たところぁ、まず逃げてうしろ見たば、 また音立てるから、わらわらと行って、 「川でろ」 というもんで、お札またうしろさ振っ たら、大きい川出たげんど、泳いでくる。 何とか早く寺さ行きたいと思って…。 また抑えられるようになったもんだか ら、 「火ぁ出ろ」 と、お札投げたら、火ぁボウボウボウ とでた。その火の中、漕いでくる。 「早く早く、和尚さま、鬼に食 (か) れっどこ だから」 というたら、和尚さまはみんな、とと さいお経で墨塗っておくやったところが、 「和尚、和尚、小僧ぁ来ねがったが」 「小僧など来ないがった」 「来ないざぁない、来たのだ、来ないざぁ ないべ」 というた。そしてまず入ってきた。恐っ かない恐っかないと、じっとしてたとこ ろが、あっちこっち見っだけぁ、まず指 の中さ、ええあんばいに墨は塗 (ぬ) だぐらん ねがったずも。そうしたところがそいつ、 「そこぁ食って呉 (け) らんなね、ごしゃげる」 と、指の中の墨の塗らってないとこば り、食 (か) っじゃど。 んだから、山さなの一人で行かんね。 |
(海老名ちゃう) |
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