10 天太郎むかしむかし、じさまがオカタも持たないで、 毎日草刈りに行っていたところが、どこ からともなく鹿が逃げて来たという。「どうか、おれは春日神社のお使いの者 だげんども、道に間違ってこっちゃ来た どこだから、どうか助けて呉 (く) ろ」 というようなもんで、草をかぶせて知 (し) しゃねふりしていたところが、狩人のも のが、 「こっちゃ、鹿来ねがったか」 「来ねがった」 というたば、狩人は帰って行ったど。 「何か願うことはないか、助けてもらっ たから」 と。そうしたところが、 「おれぁ、オカダに来るものはなくて、 オカダ持ったことないから…」 「そのうちに、天から女衆が水浴びに来 るから、そんどきに自分の気に合ったも のの着物を隠しておくじど、オカダに なって暮される」 と、こう鹿教えて行った。 「ああ、さいわいだ」 と思って、また次の日、次の日と行っ たところが、やっぱし木ノ葉でも落ちて 来っかと、美しい匂いするようだなと 思っていたところが、女の美しいの飛ん できて、沼さ来て、てんでんに裸になっ て水浴びしたそうだ。そして一番と気に 合ったようななの着物を盗 (と) って、自分が 背負ってだハケゴの中さ入っで知 (し) しゃん ぷりして、時間が来たから帰んべという もんで、皆帰り仕度したげんど、その者 の着物だけがなくて、なんとみんなして 探 (た) ねたげんど、 「おじいさん、知しゃねか」 というげんど、 「ほんな女の着物なの、知しゃね」 なて、じさま言うばりなんだし、着物 きないと天さ行かんねんだし、泣きなき、 「おらだもお日さまのあるうち行かない じど、行かんねくなっから、お前探 (た) ねて 帰って来いよ」 と行かっだとはぁ。そうすっど泣きな き、 「おじいさん、何とか着物も持たないん だし、何とかして呉 (く) ろ」 というたところが、「歩 (あ) えべ」というて 連 (せ) て来らっで、汚ない着物、じんつぁの なの着せらっでいるうちに、子どもを生 むようになって、 「何と名付けたらええが、天から降って 来た者ぁ産 (な) したなだから、天太郎と名付 けたらええがんべ」 天太郎と名付けて、まず天太郎、天太 郎と、子どもむごさくて育 (おが) しったところ さ、じいさんが、あるとき、 「お前のお母さんが天から来た者だ。お 前の名は天太郎と、ほだから、名付けた。 その着物はおれぁ知った。その着物は天 井の屋根の下のハケゴさ吊るしったの、 着物だから、語んねでいろよ」 というて、町さ行 (い) がっだそうだ。 「天太郎、おれの着物知しゃねえか」 というたら、 「言うど、じんつぁにおんつぁれっから、 教えらんね」 「いや、お前どこ、天さつれて行んから 教えろ」 「天井にあるそうだ。天井でとらんねん だど」 何とかして梯子でも掛けて登って行っ て、ハケゴ落して来たら、やっぱしわれぁ 着物だったそうだ。それから後、喜んで、 「おれはこげなとこで働いてては、一生 つまんない」 と思って、じさま来ないうちに髪をき れいにしたば、子どもも、 「ええおっかさになったごど、まるで家 のおっかさでないようだ」 と、子どもは、ええおっかさだという もんで、たぐさって(つかまって) 「悪いげんども仕方ないから、お前は天 さ来るに朝顔の種子呉れっから、育 (おが) して、 そうして天に届いたら来いよ」 というて、朝顔の種子三粒呉 (け) たそうだ。そしてまず、飛んで行って、 「おかぁさん」 といううち見えなくなって、何して泣 いっだというたら、 「おかぁさんが天さ行ったものはぁ」 「教えんなというたの、教えたか」 「おっかさは、この種子を、じきに育 (おが) る から、天さ届いだらば、天さ来いと言う け」 一生懸命で蒔いて慈精したらば、おが るおがる。たちまちうちに天さ届いて、 「天さ届いたべから、まず二人でおにぎ りいっぱい背負って行ったらええがん べ」 というて、おにぎりいっぱい背負って、 木さ登りのぼり行ったら、まず途中で僅 かして天さ届かながったずもな。 「おかぁさん、天太郎来たのだげんども、 天さ届かな」 と、うんと音立てたら、帯みたいなも のさがって来たのさ、おじいさんと二人 で、そいつさたぐさって天さ行ったど。 そしたところが、家持って店など開けて たけど。 「天太郎だ来たから、おれぁ魚でも買っ てきて食 (か) せっからな、天太郎よく来たこ となぁ、決してここの瓜など食 (く) だいがん べげんど、決して食うなよ、そうすっど 下さ行かんなねからな」 と教えて行ったごんだど。ところがじ さまはいやしいんだし、 「食ねか」 「おれぁ食ね、下さ行きたくないから食 ね、おら」 そしたば、じいさんが耐えかねて、食っ たごんだど。そしたば雷なって、大きな 雨降ってきて、そのおじいさん下さ落ち てはぁ、まず天さ登らんねんだし、情け なくて青蛙 (びっき) になって、毎日雨ぁ降るよ うな日には、ゲヂゲヂというのは、「天太 郎天太郎」と呼ばるのだど。 雨降り蛙 (びっき) ざぁ、天太郎呼ばいだど。 |
(海老名ちゃう) |
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