20 炭焼(た)きじじい(狐むかし)

 むかし、三平じいさんという、山さこ もって炭焼(た)きしているじいさんがいだっ たそうだ。そのじいさんがある晩、山道 を通るとき、なんだか今晩がおかしげな 寂(さぶ)しいような晩だな、と一人口たって、 煙草のみのみ行ったところが、少し行っ たれば、煙草の火ぁ消えたごんだど。
「こりゃ、煙草の火、消(け)た」
 まず、ひきガネ(火打ちカネ)で火つ けんべと思ったところが、煙草さ決して 点かねごんだど。そのうちに、生臭いよ うな、異(い)なような風が来たど。
「はぁ、何かあるな、こっ寂びしいよう だな」
 と行ったところが、侍みたいな者と、 後ろさついた付き人。付き人は提灯など 持(たが)ってだけど。あの火貰うべと思ってい そぐと、急ぐほどその者も行くごんだど。 不思議だなこりゃ、と思って、まずワラ ワラといそぐべと思うと、それもいそぐ べし、よく見たところぁ、尻尾ぁブラン ブランブランと動くごんだど。
「さぁ、狐だなこりゃ。こがえなもの化 かさっでいられるもんであんまい」
 と思って、そしてよく見たところぁ、 やっぱし尻尾は太くて狐だから、
「こりゃもっと上手に化けろよ。こりゃ、 尻尾なの、もっと見えないように化げっ こんだ」
 というたごんだど。モクモクと丸っこ くしったけぁ、ギィーと出して、
「そんなこと化けっど、あぶないぞ、生 命ぁ、アハハ…」
 というごんだど。そしたれば、
「おれは狐と思わっだなぁ」
 と思って、こんどぁ、音立てて、 キャーッというけぁ、体を現わして逃げ て行ったど。侍もキャーッと逃げて行っ たど。それからこんどぁ、
「あがえなものに、おれぁ化かさっでい られんめぇちゃえ」
 と、歩って行った。ところが草ぶくに 提灯落ちったごんだど。
「ああ、これは狐の提灯というもんだべ」
 と思って、
「こりゃ、ええもの拾ったこりゃ、こい つぁおれぁまず仕まって、宝物にしてお かんなね、こりゃ」
 どて、その炭焼き小屋さ行って寝っだ ど。
 まだ夜明けもしないような時に、ドン ドン、ドンドン、ごめん下さい、ごめん 下さいという音する。
「はぁ、人だらば天井の方叩くげんど、 下叩くな、こりゃ」
 と考えた。そしてこんど、「オウ」なて 出はって来たとこぁ、ええ女、まず暗い げんども、はっきり見えっこんだどな。
「ははぁ、こりゃ、昨夜(ゆんべ)は提灯拾って頂 いてありがとうございました」
 と、こう言わっだごんだど。
「んじゃ、狐か」
「んだ、是非とも、今晩いるからその提 灯を返していただきたい」
 と、懇ろにまがらっだごんだど。
「いやぁ、提灯だけ返さんね、おれぁ宝 にしておく」
「どうか娘を嫁にやるについて、是非と も要るなだ」
 といわっだど。
「ほんじゃらば仕方ないな。嫁にやるに ついでだら、返す。ほんじゃ、祝いに油 揚げなどつけてやんべ」
 そうしたところぁ、喜んでその油揚げ でっしり貰って行ったど。そして、
「今晩、夜になったらば、どうか向うの 山見てて呉(く)ろ、みんな来て、提灯行列すっ から」
 と。嘘だかなえだかと思って、飯食っ て外さ行って、言わっだ向うの山を見っ だところが、やっぱし、ころましく狐提 灯つけて列して見せたごんだけど。じい さんのとこずっとさがって見せらっだど。 これは面白いもんだな。
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