12 和尚と狐

 専称寺という寺、山の上に建ってで、 そこの山さ狐など巣くっていた山だった ど。そしたばある日、専称寺の屋敷さ、 不思議なような者来て、
「坊さん、ここは専称寺という村の寺だ な」
 なて、言う者ぁ来て、
「専称寺にトウリン和尚という和尚さま の、立派な和尚さまで、太ったのいだの、 おれは親に聞いっだ」
 と言うごんだけど。そしてトウリン和 尚は、
「何しにお前ここさ来たなだ」
 と感づいて聞いた。
「これが村で一番高い立派な建物だから、 これを見に来たどこだ」
 こういう風に言う。
「こりゃ、狐の畜生だな」
 と思って、そしたば、その狐が言うに は、
「おれはこの寺は村のものでなぁ、おら えのお父さんがここの村で生まっで、寺 のとこに学校があって、そこに狐に憑 かった生徒がいたということ聞いっだ」
 と。こういう風に言うごんだど。トウ リン和尚も、
「ほだ、おれも聞いっだ。その生徒は名 呼ばっても分んねくて、みんなで心配し て、それに名を呼ばったりしたところが、 青ざめてふるえっだな、狐の性だど、ヤァ ヤァと言う内に、狐ぁ気付いたったとい うこと、親に聞いっだ」
 なんて言うごんだど。トウリン和尚も、
「おれもその話聞いっだどこだ」
 そして和尚さんに向って、
「この寺はええ寺だけども、村のものだ ごでな」
「そうだ、村のものだ」
 狐さ向って、狐だと思ったもんだから、 トウリン和尚は、
「お前、ここの主のようなこと語るな」
 と言うと、和尚さまさ、
「お前はここの何だ?」
 と言うけぁ、
「おれはここの番人で、この寺をええあ んばいに守って、朝晩鐘ならして村さ響 かせ、山さ響かせて、ここを守っている 者だ」
 と言えば、とうとう狐はかなわねくて、 本性あらわして、頭さ手あげて逃げて 行ったという話。
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