8 狐と狼

 狐と狼、仲よいものいだったど。そし て狐が冬越しして、腹も空(す)きだしすっか ら、今度、子どもどらさも何か食いもの探 (た)ねて来てくれんべと思って、穴から出て きて、道さ出はって、人に見付けらんね ように、鼻クンクンさせていたところが、 何だかうまい匂いすっこんだどな。
「ああ、魚の匂いする。ほんじゃまず、 あれ一つ取って呉(け)ましょう。ほんでも なぁ、ちょえっと昼間なんだし、とると いうこと行かねから、死んだふりするよ り他ない」
 と思って、賢こい狐なもんだから、ワ ラワラと、道傍から出はって行って、向 うから車引いて来る魚(いさば)屋に見付けらん ねように出はって行ってって、死んだふ りして、口など開いたりしていたど。そ したば、車引いっだ魚屋二人、
「いや、狐でないか、色気のええ狐だ、 狐だ、あいつ何(なえ)だえ、病気でもして死ん だんだべちゃなぁ、何されでいたんだか、 死んだようだ」
 と見てたようだけど。
「まず踏んでみろ」
 と、踏まっで、
「痛いげんども、そいつ堪(こら)えないげれば、 おれぁ魚とって食うこと出来ないから、 まず」
 と堪えて堪えていたごんだど、狐は。
「ああ、死んだのだ。こりゃ、なじょし ても何も音も立てない。死んだなだ」
 なて、
「こいつ、皮屋さ売ったらば、大したも のだなこりゃ。今日は魚を売ったり、皮 屋さ行ってこいつ二人で分けたりしたら ば、大したもんだ」
 なて喜んで、
「ほんじゃ、車さ上げろ」
 なて、狐を持(たが)って、魚入っでいた篭の 中さ、クィンと上げてやったど。そした ら狐はよろよろとなった。まず魚屋は車 引いて行った。喜んで食うだけ食って、 こんど、狐は持(たが)がれるだけ持(たが)って、ピン と落ちて、ワラワラと、われ家(え)さ行った そうだ。そしたらば、魚屋、町さ行って みたところぁ、まず魚は少しあるだけで、 みんな無くなって、
「いや、狐に騙さっだとは、そいつのご んだ。畜生!」
 と言うもんで、今度はごしゃやけて、 狐に騙さっではいらんね、と言うて、言 うたたて分んねんだし、また次の日、問 屋から魚持(たが)って来た。
 一生懸命で炙ったり食ったりしていた とこさ、狼ぁ来て、
「狐どん、狐どん、何としった。何だか うまい匂いさせっだな」
「おれに少し分けて食せろ」
「まずまず、ちょっと料理しないうちは、 来らんね。料理したら、食せっから…」
 と言うもんで、せっかくうまいどこ戸 棚さ入れたり、食ったりして、うまくな いとこ、ちんと狼に食せたど。そしたば、
「こりゃ、うまいことしたもんだね」
「雑作ない、こがえなことなど、俺は死 んだ振りしていたところが、おれどこ幸 いに魚の篭さ入っじゃずもんだ…」
 なて、話ポウポウとした。
「ほんじゃ、明日、おれぁすっかなぁ」
「明日しろ、おれぁ行かねから、あんだ そういうにして食え」
 と言うもんで、その日別(わか)っで行って、 明日になるのばり待ちて、また行ったら、 やっぱし魚屋が向うから来るの見たどな。 そして狼は死んだふりしていたそうだ。 そしたば、
「何だ今日は狐でなくて狼だ。こん畜生、 ほに、おらだ騙さっでいらんね」
 つうもんで、今度は太い棒持(たが)って来て、 叩がっだ、叩がっだ。そしてとっても生 命からがら狐のどさ逃げて来たごんだど。
「いや、とんでもない目に会った。いや、 叩がっではぁ、生命からがら逃げて来た。 あがえなこと教えっざぁ、あんまいちゃ え」
「教えっざぁ、あんまいちゃえ、なんて、 ほんじゃ、お前、おらだなんぼ痛いったっ て堪(こら)えっだ。ほんじゃお前、堪え足んね のだ」
 なて言わっで、その狐もまた、その日、
「何か食いたいなあ、ちょっと誰か来な いかなぁ」
 なて、また朝早く食いもの探ねに出 はったど。そうすっど、坊さんが向うか ら一背負い背負って来て、
「あいつはなまけ者でないから、騙すこ とは出来ないな。なじょしたらええんだ がなぁ」
 と、道の端に隠っで見っだところが、 坊さんがチャンコ・チャンコと、重たく て、したらば、一箱ポテンと落ちた知ら ねで、行ったごんだずもな。
「いや、そいつはええ、難儀もしないで 拾わっだ」
 と思って、ワラワラその煎餅を持って 行って食っていたら、狼行って、その話。
「いや、ええこと、今度ないかい?」
 と言うたらば、
「こういうことした、おらだ」
「貴様、ええことばりするねえ、おれさ 教えろ」
「教えたげんど分んねじだい。痛い堪(こら)え ねで逃げて来たがらざぁ、おれだ、誰か 間抜けな者いないもんだから、騙すこと できないんだじすっじど、とんなええご んだ。坊さんは、煎餅とは思わねがった な。饅頭とか油揚だと思ったら煎餅だ」
 と、二三枚もらって食ったど。
「いまっとええことないかい。おれも もっと食いたいなぁ」
「晩げ、あの坊さんがお寺の本堂さ、確 か、お供えするに相違ないから、ほんじゃ 晩げ、おらだ食って来たらええんねが」
「あまりええ」
 と、二人で相談して、
「まず途中から本堂さ行くには、寺の前 から二人で掘って、本堂さ行くより他て ない」
「そげなごどなど、雑作ないずだ」
 と、二人で行って、一生懸命で穴掘っ て、くぐって行って、本堂さ出きて、本 堂の縁の下から入って行っていたば、全 くうまいものは、本堂さ飾らっていだ。 肉でも何でもあったど。
「これはええどこさ案内して呉れたもん だ」
 と言うもので、喜ばっで、そして戸棚 開けてみたら、葡萄酒なの、盃なの、な んでもあっこんだど。「これは」というも んで、狐は入って、
「さぁさぁ、早く葡萄酒飲め」
 と飲んで、狼さ一生懸命飲ませて、自 分は飲んだふりして、すうっとそっちさ 空(あ)け空けしていたごんだど、狐は。
 そしたところが、
「こがえに御馳走になっては、何かお経 でも上げて行かんなねごで」
 と、狐は言うたそうだ。そしたば、
「そうだごでなぁ」
 と、狼は衝立(ついたて)さ衣かかっていた。その 衣を狐から着せてもらって、引出しなの あるの開けてみたら、剃刀でも鋏でも何 でもあるけごんだど。そして、
「お坊さんになるには、髪おやしたお坊 さんはいないから、おれは髪はさんで呉 れっから…」
 なて、狐はパキパキと、耳の辺りから 皆髪はさんで呉(け)て、そして今度は、
「本当の坊さんになった。鉦(かね)叩かんなね、 まず、お経を上げっどき」
 なて、狐に言わっで、ゴエンと上げて、 ワンワンワンワンなんてお経上げっだど。 そしたら、
「もっと大きく鳴らさんなねごで」
 なて、ガェンガェンガェンなて鳴らし たど。そしたら、寺さ聞きつけて、
「何だ、不思議な、今頃鉦鳴らすなて、 とんでもないごんだ。何者だか分んねご んだから、行ってみんべ」
 と言うもんで、小僧どこ起してやって みたらば、小僧は節穴から見たら、とん でもない者、お経を上げっだもんだから、 腰抜けになって動かんねくなったもんだ ど。こんどあまり来ないからどて、また 別な小僧やったれば、そいつ聞いて、
「何者だか、唯事(ごん)でないから人呼ばって …」
 だと言うもんで、
「とんでもない者、鉦鳴らすから、みん な寄って呉(く)ろ」
 みんな棒や木刀など持って来たば、 やっぱし狐は賢こいもんだから、先(せん)の穴 からズウンと抜けて行って、跡さ板蓋 しったとこだど。そしたば、狼ばり魂消 て、狼はワンワンワンワンとお経上げて、 みな魂消ているうちに、
「この畜生!!」
 と言うもんで、狼ぁ下から来たもんだ から、逃げんべと思ったら、蓋されてい て、逃げらんね。何とピンピン・ピンピ ンと騒いで、天井見たら拍子ええぐ、高 窓あっかったど。そこからピンとはねて、 ワラワラと「狐の野郎に騙さっだ」と言 うもんで、またかけて行ったところが、 狐は戸の口にいたけぁ、
「おら、おれ、やっと今来たばりだ。ま ず何とかして早く来ればええと泣いっだ どこだ」
 と、狐に言わっではぁ、正直な狼なも んだから一(ひと)食(く)いにしてくれんべと思っ て来たげんども、そういうもんだったか と思ったど。そして、こんど、
「いやいや、何とでも自然に人の手に掛 かっとこだった。んだから貴様どこ生か してなの置かんね。何でもこの通りだと 思って来たどこだ」
 なて、ごしゃえたげんど、賢い狐にと うとう負けたから、賢いものに敵わね。
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