5 蟹の恩返しあるとこに信心の娘がいて、仏の道さ つかえて一生懸命で、お経なのばり上げ でる娘。あるとき散歩に出きてみたとこ ろが、漁師の息子が蟹を採って来て、蟹 を下げて来る。八匹の蟹、やんちゃやん ちゃとして来っどこ見て、「これは何するのだ。蟹をこがえに苦し めて…」 と言うたところが、 「おれは、こいつ炙って食うのだ。炙っ て食うとうまいもんだ」 「これは可哀そうに、おれの着物一枚と 取換えないか」 こう言うごんだど。 「あまりええ、なんぼ喜ばれんべ」 と、蟹と着物一枚と取換えて、 「蟹、蟹、決して見つけられんなよ。可 哀そうに炙って食れっかったぜはぁ。こ のくらい苦しんだあげく、火炙りなの掛 けられっこんだら、可哀そうだったなぁ」 と、放してやったらば、蟹はうれしそ うにして皆帰ったど。そしてずっと、ま た来んべと思ったところが、草にガサガ サというものあったから、蛇は大きな 蛙(びっき)見つけて、それ喰わえていたっけど。 「いやいや、この蛙も、こがえな蛇に食 れるなんつぁ、むごさいもんだ、ほんに…」 と、よくよく見て、蛇さ言うたって分 んねげんど、 「蛇、蛇、その蛙をおれさ呉(け)ねが」 と言うたど。 「おれはお前のおかたになっから…」 と言うたら、パェンと放してやったご んだど。それから今度は、 「何時(いつ)の何日(いつか)で嫁に行くのええ」 と言うたそうだ。そして家さシオシオ と来て、親達は、「何だ」と言うたところ が、 「おれ、とにかく見かねて、蛇なの、こ んげなこと言うたたて、来んめえと思っ て、こう言うたところが蛙ば放した」 「蛇というものは恐ろしいもんだぜ」 と、親達に教えらっじゃごんだどな。 それから親達も厳重に囲(いばり)はする、何は するなりして、 「ととさいことして頂くより他ない」 つうもんで、一生懸命、お寺さまに祀(おが) もうしたり、お経を読んでもらったりし ていたそうだ。そしたら七日目の晩に、 音するもんだから、親は何の気もなくて、 一生懸命でお経上げっだどころぁ煙出し から、ドェッと落ちて来たごんだどな。 今度はなじょになるもんだかと、お経上 げっだところぁ、バタンバタンバタンと いう音する。プチプチプチなていう音す る。朝げになって呉れればええと思って、 一生懸命で、何の気もなくお経上げして、 朝げになって夜明けてみたところが、大 きな蛇が、蟹にあちこち食(か)っで、死んで いたっけど。 |
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