4 笛吹き聟

 宇治川のほとりに、橋姫というお姫さ まの夫婦があったど。仲よく二人で暮し ていた家だったど。
 ある日、橋姫は、
「おれは海見たことないもんだから、ワ カメというもの食ってみたい」
 と、夫さ願ったところが、
「ほんじゃ、そがえなものなの、海さ行っ て取って来て食(か)せっこで」
 と、海さ、野越え山越え海さ行ったら ば、いや広い広い、本当に砂の上に笛の 好きな夫だったもんだから、懐から笛出 して、笛吹いて、ずっと海辺歩いっだと ころが、そこの人が、
「お前は笛の上手だごと、まず竜宮の乙 姫さまさ聞えて、お前を是非来てもらい たいと言わっだ。行ってもらわんねが…」
 と言うたところが、
「んだな、竜宮さ行ったことないから、 あまりええ」
 と、こう答えた。そしたば、
「おれの背中さおばって、眼ひっつぶっ て呉(け)ろ」
 と行ったところが、とても〝竜宮のよ うなところだ〟ということはあるもんだ。 とにかくええどこだけずまな。まず座敷 さ上らせらっだところが、おじいさんと おばぁさんと娘と居て、
「聞かせて呉(く)ろ」
 そしたところが、とにかく上手な綺麗 な笛の音なもんだから、
「お前どこ、放さんねぐなったから、お らえどこの聟になってもらいたい」
「聟になるはええげんども」
 と、そこで御馳走さっで、
「それはええげんども、おれはこの食物 ばりでなく、人の飯(まま)を食いたい」
 と言うたところぁ、
「そげなもの雑作ないから、どうか聟に なって呉ろ」
 と言わっで、知らず知らず月日を送っ てで、それから、
「竜宮から送って行って、気に合った食 物を上げるように…」
 と、海辺に家建ってたところさ、つれ て来られるところだっけもな。
「これはええごんだ」
 と、いたげんど、橋姫の方は待てど暮 せど来っざぁないもんだから、
「おれは海さ行って見っかなぁ」
 と思って、野越え山越え行ってみたと ころが、海は広いげんども人もいない。 そして見っじど、家が海辺にあるけがら、 そこさ行って、
「笛上手なのが、ここ通んねがったべが」
 と言うたらば、
「竜宮さ聟にもらわっだ。食物は竜宮の 食物で分んねほでに、毎日ここさ来て、 食べるようにしてるから、また来るべか ら、そん時会うように隠っでいろ」
 と教えらっだ。ほんじゃ、会われるな と思って喜んでいたところが、篭さなの のって、みんなに送らっで来て、みんな 帰って行ったそうだ。そうしたところが、
「早く会え」
 と、その人から教えらっで、橋姫は、 「おれが行くべと思ったげんど、行かん ねでこうした訳だった。すまなかった。
二人でここを逃げる他ないがんべ」
 と思って逃げた。そしてまた元通りに 橋のたもとで暮した。
>>続 牛方の山姥-海老名ちゃう昔話 第二集- 目次へ