35 靴屋と金持

 靴拵えと、金持な人いだったど。
 んで、その靴拵えは毎日励んでは食い、 励んでは食い、そうして毎日朝げから歌 うたって本当に楽しく働いている。隣の 金持な人は、毎日毎日心配で、
「この金は泥棒に入られっど悪い、いや 何としたらええ」
 と、寝るときは寝るときで、心配で寝 らんね。起きては起きたように、何とし たらええんだか、金と、起きては眇 (すが) め、 寝ては心配という人だったそうだ。
 あるとき、心配するあまり、隣の靴拵 えは、朝から晩まで楽しく唄うたってい る。
「まず、聞いて来らんなね」
 と。
「お前でなんぼ金貯まったべ」
 と聞いたら、
「おらだ、今日、こうマメで働くじど、 まず食うものは買われるし、働いている くらい楽しみなものはない」
 と教えらっだど。
「ほんじゃ、金なんざぁ、余ったもんだ から分けてやんべ」
 と思って、分けっこして持って行った ところぁ、ありがとうと言うたげんども、 今度はこの靴拵えは、貰ってみっど、そ れも心配で、
「これは、見つけられっど…、戸棚さで も仕舞っておくと、妻 (かか) に盗られっか、い や、こいつどこさ仕舞っておいたらええ んだか、土でも掘って、埋めっだらええ んだか、泥棒に盗まれっか…」
 なんて心配で、歌もできなくなった。
「いや、金なんざぁ、持つべきでないも んだ」
 と、返して来たど。
海老名ちゃう
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