29 しっぺい太郎 

 ある山ん中の村に娘いたとこさ、白羽 の矢立って、その娘を神さまさ上げない じど、田でも畑でも荒さっで、何とも仕 様ない村あっかったそうだ。
 そして、武者修行の者が通りかかって、
「今年はどこの娘なんだか」
 と。家の人がみな泣いていたどこさ来 て、
「そがえな、神様は仕業をする訳ぁない。 何か、かにかの者だべ。んだからおれが 棺さ入って行って見んべ」
 と思って、娘の身代りになって棺さ 入って行ったところが、みんなは棺をか. つねて行って、わらわらと置いて行った ところが、やっぱし丑の刻になって、そ の棺のぐるりを、
「丹波の国のしっぺい太郎に、このこと 決して話すなよ」
 と語って、三度廻って棺の蓋とったの を見たところぁ、冠などかぶって、顔面 (つら) な ど言うに言わんね面 (つら) して棺の蓋とった ど。その武者修行の者は、ヤッと立った ところが、それらは見えなくなったど。 そして今度ぁ、
「こういうこと語るのだから、まず、ま た何かあんべから、丹波の国さ行って、 しっぺい太郎を尋ねて、そいつを退治す るほかない」
 と思って訪ねてみたところが、しっぺ い太郎ざぁ、犬だったそうだ。
 そしてその犬をつれて来たど。
 また白羽の矢立ったという話なもんだ から、犬さよっくど聞かせて、その犬抱 いて棺さ入 (い) っで置いてきたど。そうした ところが、また棺の蓋とった。犬はひょ いと出きて、その武者と二人で戦って傷 付けたど。キャーッという音すっから、 明日でなくては分んね、と思っていたど。
 みんなは、食 (か) っだと思って来てみたと ころが、
「神さまでなくて別なもんだった。お れぁ傷付けてやったから、血落して行っ たの、後ただしてみろ」
 と、ずうっと離っだところに穴あるの で行ったところが、そこに音すっからみ たら、狒狒 (ひひ) だっけど。それをみんなで退 治したど。
海老名ちゃう
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