16 舌切雀

 おじいさんとおばぁさん、子ども持た ないで、毎日毎日、二人で働いていたと ころが、あまりなつこい雀ぁ、じいさん のところへ来て、チュウチュウと頭さ 登ったり、そりゃ、焼飯 (やきめし) 持 (たが) って行ったの を呉れっじど、手の上で食ったりして、 仲々めんごい鳥だから、
「俺ぁ、子ども持たねがら、子どものよ うにして育ててみんべ」
 と思って、その雀をつれて来て、
「子どものように育てたらよかんべ、こ りゃめんごいなだ」
 ずうもんで、ばぁさんも、ほだななん て…。
 そして、おじいさんが働きに行く、お ばあさんも働いていたど。その雀はこと さらにおじいさんどこさなついて、おじ いさんが篭の戸など開けたって遊びに 行っては入り、入りして、うんとめごく なったそうだ。
 ある時、おばぁさんが機 (はた) さ糊すんべと 思って、糊たくさんに拵えたところが、 おばぁさんがいそがしくてもあったんだ べげんども、餌 (もの) 食せるの忘れていて、悪 いげんども腹減ったからと、おばぁさん が糊拵えたの、みな舐めたんだそうだ。 おばぁさんは、
「なんだ、誰も来ないのに。雀でないか、 みなこだえして舐めたの」
「許しておくやい、腹減ったもんだから、 みな糊舐めたとこだ」
「いや、許すということはゆかね。舌 (べろ) 出 せ」
 と言うもんで、そして舌切って飛ばし てやったところぁ、チュンチュンと啼き なきおじいさんが山さ行ってたとこさ 行って、何だか気掛りで、
「俺の雀に似たらしいげんども、俺の雀 であんまえ」
 と思って、少し早く帰って、
「ばぁさんばぁさん、雀なんとしった」
「あげな雀飼っていだって、俺、糊しっ たの舐めるようなものは飼って置かんね。 舌切って飛ばしてやった」
「むごさいことした。腹減ったがらだっ たべ、そりゃ。いやいや、あれ、俺ぁ尋 (た) ね て来 (こ) んなね、こりゃまず」
 と、一杯おにぎり握ってもらって、山 さ行ったところぁ、途中で犬なの、ワン ワンなんて、
「俺の舌切雀は知らねか」
「山の陰、陰」
 というもんで、それからずうっと行っ たらば、鳶が来た。
「トンビ殿、俺の舌切雀知らねか」
「あの山の陰だ」
 なんて行ったところぁ、こんどは野越 え山越えで行ったら、また烏さ出会って、
「おらえの舌切雀、知らねか」
「あの竹林に、雀の家ある」
 と言わっで、その竹林さ行ったところ が、やっぱし、
「おじいさんだか、おばぁさんだか」
「おじいさんだ」
 と言うたば、
「いやいや、おじいさんがよく尋ねて来 ておくやった。おらえの雀は本当にごめ んどうになり申して…」
 と、とても待遇されて、山海の珍味で いつまで居たっても帰ることなどない。 酒はうまい。おじいさんがほがらかに なって、
   ヒーサラ・ヒーサラ
   天地(あめよ)の宝を持って来い
   ヒーサラ
 なんていう唄きいて、踊を見たり、自 分が踊りをおどりして日暮ししているう ちに、
「俺、行かんなねべはなぁ」
 と言うたど。雀は、
「重い篭ぁええか、軽い篭ぁええか」
 と言わっで、
「俺ぁ年寄りだから、軽い篭呉れてくろ」
 と、軽い篭を背負せらっで帰って来た ところぁ、
「何処さ行って来た。そがえにいつまで も帰んねで…」
 と言うたらば、
「こういう風なものもらって来たごんだ。 雀から御馳走さっで…」
 なんて開けてみたところぁ、とにかく 金銀珊瑚という、何でもかんでもある篭 で、
「俺は俺で行って来んなね、ほんじゃ」
 と、おばぁさんも一人でオニギリ握っ て行ったところぁ、犬ぁいたり、鳶ぁい たり、烏ぁいたりして、聞いて行ったと ころぁ、やっぱし竹林で、チャンキリ・ チャンキリと機織りしったど。そして、
「舌切雀だか」
 と言うたところぁ、
「おじいさんだか、おばぁさんだか」
 と。
「おばぁさんだ」
 と言うたげんども、まず、
「めんどうになって…」
 なんて、そこでも、おばぁさんどこさ なと御馳走したくなかったべげんども、 御馳走したりして、
「重たい篭ええか、軽い篭ええか」
「俺は背負われっから、重い篭ぁええ」
 ずうもんで、貰って、
「途中で、決して開けないで呉 (く) ろ」
 と言うたところが、見たくて見たくて、 なんぼええものあっかと思って、開けて みたところぁ、とんでもない物ばり入っ ていて、
 これはこれは、おじいさんがああいう 風にして親切にしたから、あがえなええ もの貰って来たべし、開けんなというの 開けないで家さ行って開けたれば、こげ なもんでないがったと後悔して、ええば んさになったど。
海老名ちゃう
>>牛方と山姥 目次へ