11 おりや峠

 越後さ行くとき、先には峠越して行か んなねがったど。瞽女 (ごぜ) なども峠越えて来 たもんだどなっし。(尼様など、ええどこ ほど出したったどなし。世の中見せるた めに。その後でないど、嫁にやんねがっ たどなし。所風でな)
 そん時、峠越えして来 (く) んなね。目の見 えない人が峠さ引っ掛ったとき、これか ら行くよりは、ここで一晩泊っかはぁ なぁ。目は見えねもんだから寂 (さぶ) しえも何 もないんだし、そして三味線持 (たが) って、そ いつをひいて唄うたっていたところぁ、
「いや、上手だ」
 なんていう者は来て、
「まいと聞かせろ」
 と言う者ぁ来たど。その話の土台は、 夫婦で山さ巣くって、亭主はいろいろな ものとって食ったり、鉄砲で励んでいた ど。そうすっど、そのオカタどこさ、い つでも、暮、味噌漬にして、夫は弁当の お菜 (さい) に、自分ばっかり食っていっこんだ どな。こいつ女ざぁ食うもんでない。食 うもんでないの、見んな、なんて言うど、 同じもんでな。それを夫の山さ出はって 行った後で、甕から出してみたらなんだ か、鱗 (うろこ) などあるもんだげんど、食って みたら、とにかく美味いもので、うまく てうまくてはぁ、その味噌漬たんと食っ たどはぁ。そしたば水飲みたくて水飲み たくて仕様がない。
 川さ行って、曲 (ま) がって飲み、こんどは そんでも喉乾くから、山から降りて行っ て川さ喉つき出して飲むべと思ったら、 われ体は蛇になってだど。
「いや、とにかくここの人間でなくなっ たから、ここで住んでる他ない」
 と言っていだったそうだ。
「ここの山に住んでたオリヤという蛇だ。 俺はとにかく、人の往来も激しくなった じ、するから、この山に住んでいらんね くなんべから、まず越後を泥の海にする 計画しった」
 と、こういうごんだけど。その盲の坊 さまさ。
 そうすっど、
「このこと行って語っこんだらば、お前 の生命はないぞ」
 と言わっだげんども、語んねど…。
 その時、蛇は何一番好きだ嫌いだの話 で、
「俺ぁ鉄くらい嫌いなものない」
 と、オリヤが言ったそうだ。坊さまは そいつを教えたところが、そっちこっち の鍛冶屋さ頼んで鉄の棒いっぱい拵えて、 その山さ皆杭みたいに打ったど。そう すっど七日七晩うなり声したと。
 そうしてその死んだお坊さんを神に 祀って、その鉄の棒を神さまのぐるりや、 中さ置いておいたど。
海老名ちゃう
>>牛方と山姥 目次へ