10 文福茶釜 

 狐が、ある旅人の前さ来て、
「どうか助けて呉 (く) ろ、獲られっどこだか ら」
 と言うたど。そうすっど、旅人は、
「狐、何とかお前化けて、風呂敷さでも 入っで、背負いでもしなければ、俺、助 けらんね」
 と。風呂敷の中さ小さくなって、その 風呂敷背負って歩いているうちに、
「狐ぁ来なかったか」
「来なかった」
 と。そして今度は人のいないとこさ 行って、
「ここらでまず人に見付けらんねように 行げ」
 と。そうしたところぁ、助けらっだ恩 返しに、俺ぁ何とかすんなねど。
「俺、あるとこのお寺で、和尚、茶釜ほ しいという話聞いっだ。そこさ、俺どこ、 茶釜に化けっから、それ売って呉 (く) ろ」
 と言わっで、その茶釜の恰好に化けた そうだ。
「ほう、上手に化けたな。首はいま少し 太っどええなぁ」
「ツルはもう少し太いとええなぁ」
 と。とってもええ恰好に化けらせて背 負って行ったど。そうすっじど、お寺さ 行ったところぁ、
「いや、気にいった茶釜だほに、んじゃ 買うべ」
「なんぼでないと、分んねな。高いな」
「お前、めったにこんがえ恰好のええな ざぁないもんだ」
 と。そしてその茶釜を、まず早くお茶 でも出してみろ、小僧、火焚いてお湯沸 かせ、とプンプンプンプンと。
「なえだて、プンプンと、早くすすけた から、研 (と) いで来い」
 と。流しさやらっだ。流しさ行って小 僧はまず灰をつけて研いだど。
「そっと研げ小僧小僧。痛いからそっと 研げ小僧小僧」
 なんて言うごんだど、その茶釜は。
「いや、和尚さま、とんな音立てる茶釜 だ」
「そんげなことないんだから、まず早く お茶出して飲ませろ」
 と言わっで、火さ釜かけたところが、 またプンプンプンと。
 和尚さまと小僧は魂消ていたうちに はぁ、尻尾出す、足出すしてはぁ、その 茶釜は逃げて行ったど。
海老名ちゃう
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