94 お玉桜

 羽前の国亀岡の文殊堂の境内にお玉桜とて名高い老木がある。延暦年間、坂上田村麻呂が東北征伐に出向いて、この地に着いた時、土地の豪族久保某の家に泊り、その女のお玉と契ったが、田村麻呂は幾ほどもなく此地を去って京にのぼることになった後に、残されたお玉は眷恋の情に堪えず、遂に空しき人の数に入った。
 とにかくして、田村麻呂は再び此地に下向してお玉の死んだことを知り哀悼の余りに手にせる桜の枝をさして墓標としたが、その桜の枝に根を生して、年々花を開き、ついに見上げるほどの大木となった。これがお玉桜の由来だという。
(亀岡)
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