86 狼あらわれ兄弟で助け合う

 今から百年ほど以前の話である。金古小屋の山木平十郎さんの息子さん二人して、松川の中川原に朝刈(草)をしておった。丁度その時、薄暗く弟某さん一生懸命に刈っていたら、傍のくさわらから一匹の狼がおどり出て、おどろく。某さんの足へとかぶりついた。不意に打たれてアッと悲鳴を挙げて、四五間先ず刈っておった兄さん、おどろいて手にした草刈鎌でめった打ちにした。さすが不敵の狼も二人では敵わぬと思うたが、彼方へ一散ににげてしまった。兄さんは弟を背おって帰ったが、傷が案外ふかく、半月から寝たと伝えられた。狼は馬の死んだのをあさりにやって来たという。
(入生田)
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