84 三枚床細すね入道

 今から凡そ八十年ばかり前のことである。入生田の近野善兵衛さん未だ三十才の頃であった。或る秋の日の夜のこと糠野目に所要があって思わず、時刻を過ごして家路についたのは、夜遅かった。今しも糠野目から萱野を通り、三枚床へ差しかかったのは夜の四更の頃であった。この三枚床は昼すら寂しい場所である。まして夜は一層さびしい。今しもこの地に来ると傍の木陰から顕われた入道、その体の大きいこと八尺ぐらい、先々の道に立ちふさがってしまった。善兵衛さんは怖ろしさも忘れてよく熟視すれば、体には毛が生え、善兵衛さんを見て笑う。そのすごいこと、それから足を見れば、その脛の細いこと驚くばかり、兼ねて部落の人々、よく見たという細すねの化物はこれだと思って、腰なる一刀、抜く手も見せず切りつけた。二つになったかと見れば、先程の入道、消えてしまって何もない。それからというものは善兵衛さん、にわかに寂しくなって一散にわが家へ逃げ帰ったという。この化物は各所に出たというが、いたちが化けたとも言われる。
(入生田)
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