78 水江河童の怪物

 むかし、入生田部落の某家に一人の若い娘はおった。年は二十八になるに及んで、勝れて美しくなった。
 人々はみめよい女よと、二人寄ると語り、三人寄ると話すのであった。こうした女の聟になる男こそ日本一の果報者よと言い合った。ある秋のこと、其の夜はおぼろ月であった。一人の若衆の男は東の草場道から来たり、この家の前に来ると、ふっつり姿は消えた。毎夜のごとくに男は通うた。それから言うもの娘は日増しにやせて来た。生気ある娘の顔もうれい顔となった。家の人々も一人娘とて、医者よ薬よと一方ならぬ心配、さらにその効はない。部落の某思うよう、夜な夜な通う若衆こそ不思議でならなかった。ある夜こっそり若衆の後をつけて行けば水江あたりの川の中へと消えてしまった。
 これをつきとめた某が思うよう、これは必ず若衆ではない、魔性のものに相違ない、よし蛇性ならば金気は嫌いだ、一つ試みてくれんと米沢の城下から無数の針を求めて、若衆の通るあたりに打っておいた。その夜から若衆の顔色は悪かった。日増しに寂しい姿となる。ある夜、若衆は娘にささやくのであった。
 お主とこうして割(わ)りない仲となったが、縁もあまりに浅い、もはや今宵限り別れなければならなくなりました、とさめざめと泣くのであった。女はただ泣くばかり、つらい別れをしてその夜は明けた。それからふっつりと若衆の姿は見えなくなった。ある人、和田への帰途、水江辺を通ったら、一匹の河童が死んでいた。
(露藤)
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