70 牛沼の怪露藤村の西方、天王川の付近に牛沼という地名がある。沼が牛の形をしているので、牛沼と言い伝えられている。天王川の川底も高くこの牛沼辺で天王川より堰上げて、露藤の西方面の田をうるおす。むかしのこと、下舘の坂田七郎右ヱ門さん、この堰の下流に田があった。その年は珍らしく旱天で、連日水引をしなければならなかった。盆の日のこと、夜に七郎右ヱ門さんは祭にも行かず、ただ一人田から堰口へと上ってきた。その晩は珍らしく暗夜、鼻をつままれても分らないぐらい暗かった。ただ一人堰口にやって来た七郎右ヱ門さん、だれも水引する者がおらず、一人喜んで牛沼に堰ぼりの傍に山と積んだ萱があった。その萱の傍に腰打ちかけてしばらく休んで居った。四更の頃、突然百雷の一時に落ちたような大音響がした。そのおそろしさ、その何たるか分らない。七郎右ヱ門さんは気丈の人であったが、にわかに恐ろしくなり、一散に家へにげかえり、それからにわかに床につき、それが因で死去したという。 |
(露藤) |
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