68 石音和尚狐の嫁入りを見る

 露藤村宝岳寺十八世を石音和尚と呼んだ。妻も迎えず、ただ一人、いたって温情に富んだ親切な和尚さんであった。こんな風だから、よく子どもはなついて、部落の子どもたちはお寺に行くことを楽しみにした。和尚さん相手に遊んでいた。和尚さんは酒が大好物で、いつも檀中に行って馳走になり、ほろ酔い機嫌で帰るのだった。
 ある秋のこと、中島の法要に招かれて好きな酒とて、十二分の馳走になって家路についたのは、夜の四ツ半刻であった。今しも色部野を通って善蔵坊に差しかかった頃、前方に婚礼の行列があった。何さま大家の婚礼とみえてにぎやかな事。和尚さんは傍に立たずんで眺めておったところ、行列の一人が和尚さんを見つけて、「これは和尚さま、さいわい今日は息子の祝儀、なにがなくとも祝のこと、酒を一つ召し上がれ」といわれるので、好きな酒のこととて、その供ぞろいについて行き見たこともない立派な家にやって来た。たくさんの人々は「これはようこそ」と出迎える。座敷には万灯のように行灯がついていた。和尚さんの姿を見ると挨拶をし、やがて大広間に案内され、山海の珍味で、下へも置かず、馳走する。十二分に馳走になって酔いは廻り、そのうちに風呂を召しませというので、いい気になって風呂に入った。小佐家の喜兵衛さん、南の畑で、あまり賑やかな人の声がするので不審に思って声のする方へやって来ると、一人の男、暗いうちに溜に入って気持ちよげにいる様子、言葉をかけても最初は分らぬ。ようやく狐に化かされたことが分かって、溜から引き上げてみれば、宝岳寺の石音和尚であったという。
(露藤)
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