62 魚(いさば)をつけた女狐に化かさる

 今から三十年ばかり前のこと、夜が更けてから、村の駐在巡査秋元甲子太郎さんが巡回の道すがら、今しも亀岡の十字路から安部小屋に差しかかったところ、不思議なことには道のない田を引いて行く車の女がある。はて酒にでも酔ったものかと見ていたら、田を越えて畑の上に引いて行く。あまりのことに職務柄その跡をついて行ったら、一人の女一生懸命に車を引いて道ない処を行くのであった。秋元さんが近づけば初めて夢から醒めた様子、そして不思議な顔。よく聞けば、泉岡の魚(いさば)屋某さんとて女であった。肴を仕入に米沢まで行って帰り道すがら、道は悪いと思いながら道に見えて、仕方がないで、この有様というのであった。考えて見ると狐車の上の肴食いたさにばかにして、人なきところにつれ込んで、肴を食う気であったということは分った。性来親切な秋元さん、気の毒なことに思って魚(いさば)屋の女を頸無橋まで送ったといわれる。こうしたことはしばしばであったという。
(露藤)
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