21 だまし地蔵

 入生田砂川の赤地蔵はまた「だまし地蔵」ともいわれた。むかし、松の木の蘭渓先生の塾のあった頃、入生田部落・露藤部落の徒弟はこの前を通り、夏時などは地蔵尊の木像を持出し、砂川へ入って水浴びし、子どものことだから跨がりなどして終日遊んで、忘れて帰ったりしたが信小屋堰から下には決して流れて行かなかった。また後藤兵左ヱ門さんのところに三反歩ほどの竹やぶがあって狐が住んでおった。
 夜おそく通って化かされたという話はたくさん残っている。地蔵尊の前の土橋に小豆とぎをしていて、人が通るとザクザクという音がする。ある夜のこと、部落の某がこの土橋を通ったらザクザクと連呼するので、よし畜生、こうしてくれる、と傍の石を拾って音のする方めがけて投付けたところ、キャッと一声、某はうまく当ったと帰り、翌日そこを通った人、大きいいたちが血まみれになって死んでいたという。淋しい場所とてときどき狐は通る人々をだましたので、人々は地蔵尊ならんと呼んで「だまし地蔵」ともいったという。
(入生田)
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