17 稲荷の奇瑞

 今から二十数年前であった、高橋という人が製米業をしていたときで、ある年の秋のことであった。回更の頃、小便を催して伏所から出て小便所へ入った。そして今しも出んとした。南方がにわかに明るくなったと思えば、折りからその明かりが闇路に反映して一層明るく昼のようになった。さぁ火事だと思ってよく見れば、赤田の稲荷堂を中心として附近一帯くっきりと見えることは出来た。あまりの不思議さに、しばしみとれておったら一時にかき消す如くに、その何物も見えず、元の闇路となったと今でその何たるやを知ることはできないと、高橋さんはいうのである。また時々、深更、この稲荷堂から狐火が出るのを見ると伝えられる。
(露藤)
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