89 納豆長者

 むかしとんとんあったけど。
 あるどこさ、じさまとばさまいだんだけど。ほしてあるとき、じんつぁとばんちゃ、何もないからクキナ漬で御飯(おまま)さ納豆かけて、ほして朝飯食ったんだけど。ほうしたれば年の頃だらば十六才になるような、髪結わねようなモサモサしたような坊主に多(うか)いような、ザンギリに少ないような顔しった野郎コ来て、ほして錠の口んどこで、
「じんつぁ、ばんちゃ、納豆こぼれる、納豆こぼれる、落ちる、落ちる」
 ていうんだど。
「なんだべ、ばんちゃ、ばんちゃ、この若衆は腹減ってであんまいか、納豆食いたいの、何食いたいのて言うた。おらえにも何もないげんども、進ぜんべな」
 て言うて食(か)せんべと思ったんだど。出したもの食うもしねで、
「じんつぁ、じんつぁ、納豆飯こぼれる。お汁(つけ)こぼれる。クキナ汁こぼれる、落ちる、落ちる、落ちる」
 そして御飯食ううち、さえずるもんだから、じんつぁ、うるさくなって、
「この野郎、うるさい野郎だ。気合(きしゃわ)ね野郎だ。外さ行ってろ、出はって行げ」
 て言うたんだど。ほんでも野郎、外さ行かねで、
「納豆、納豆こぼれる、こぼれる、落ちる」
 て言うわけだど。じんつぁ、ごしゃえでいきなり立って追っかけて行ったど。
「この野郎、ほに、せわしない野郎だ」
 追って行ぐど、したれば、そいつぁスタスタ、スタスタ、川端ずうっと行ったけぁ、どこまで行くべと思ったけぁ、そんどきちょうど雨降って続いて、水どんどん出て増水して川のふちまで水来(き)ったんだけど。ほして柳の枝の下さ行ったけぁ、すいっとその男いねぐなったんだど。
「へえ、ここらさ行ったな、あの野郎、どさ行ったべ」
 と思って、腰かがめて、ほこらずうっとこう眺めて見たんだど。ほうしたら、ほの増水した水に洗わっで甕が今にも川さ落っで行くような格好しったんだけど。なんだべと思ったら、ほの甕の中さいっぱい銭入ったんだけど。して、ほの銭も世の中さ出はっだくて、ほしてザンギリの若衆になって、じんつぁばほこさ誘って来て、正直者のじんつぁ、ばんちゃば大判小判いっぱい甕一つ授けたわけなんだけど。ドンピンカラリン、スッカラリン。
(集成「取っつく引っつく」系)
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