77 金売り吉次

 むかしとんとんあったずま。
 あるとき、在方(ざいがた)の方さ、正直な百姓で、吉次ていう者がいだったど。吉次は家が貧乏なので、山さ毎日毎日行って、炭焼きしったんだけど。ほして、ほいつば町さ持って行って、売って、米に換えて、ほして暮し続けていたんだけど。
 ところが毎日毎日、本当に正直者で働くもんだから、別に不平も言わねで、自分がお祭り来ても休むこともしねぇで、働き続けっだんだけど。ほして吉次が相変らず炭焼きに行って、竃場さ出かけて行ったところが、途中で知しゃね白髪のおじいさんに出会ったんだど。したけぁ、おじいさんは、
「お前はよく不平も言わねで、お祭りの休む日も休まねで、よく働く若い者だな」
 て、賞めて呉(け)だんだど。吉次は別な仕事しているの、何にも普通で、稼がねげば食(か)んねから稼いでいるだけのことで大したことないと思っていたんだけど。ところが人に賞められっど何となく気分ええぐなって、ほしてまた仕事さ気合いかかって、毎日毎日本気なって仕事しったんだけど。
 ほして次の日、炭焼き小屋さ行って竃場さ行って見たれば、昨日すっかり立てておいた炭竃の中さ、炭さっぱりなくなって、みな炭が灰になっていだんだけどはぁ。
「不思議なこともあるもんだ」
 ほして、中のもののぞいて見たれば、ピカピカ、変な光を放つものがあって、その光るもの取り出してみたれば、なんだか立派なヒカヒカ光る玉なんだけど。ほこで吉次は、
「こりゃ、とんでもないもの出来てきた」
 しかし、これがどのぐらい値打ちあるもんだか吉次にはさっぱり分んねもんだったど。そこでそいつば町の旦那さまんどこさ持って行ったんだど。したれば、
「ああ、これ、お前どっから持って来た」
 旦那、こう聞くわけだど。で、
「前の日、おじいさんさ行き会って、お前はよく稼ぐなぁ、て賞めらっで、お前にはきっとええもの授(さず)かっかすんねぇなて言うて行ったず」
 なて語ったんだど。ほしたれば、「ははぁ、ほうか」て。
 次の日行ってみたれば、また同じものあるんだけど。ほうしたけぁ、
「いやいや、これは吉次、大したもんだぞ。これは米の二升、三升で買われるもんでない。お前が今まで一日働いて炭背負って来て、米三升ずつ渡しったげんども、何だか二升・三升の値打ちではないようだ。とほうもない宝物だかもしんねぇ」
 ほして早速、若い者に言いつけて米、吉次さ一俵あずけてよこしたんだど。
 吉次は三升しかもらわんねな、一度に一俵なてもらったもんで、ぶっ魂消た。
 ほして帰って来たればまた次の日も玉ある。またその次の日も玉ある。ほして吉次はだんだんと富み栄えて行って、ほして近郷近在にないほどの分限者になってはぁ、山形はもちろん京の都まで金売りに行くようになった。ほして平泉の秀衡(ひでひら)、そしてまた源氏の大将とも交流するようになって、東北でも有名な金売り吉次になったんだけど。ドンピンカラリン、スッカラリン。
(集成「炭焼長者」一四九)
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