72 年取りの呪言

 むかしむかし、楢下の宿にある家があって、そこの家では年とりの晩になっど、火棚からずうっと荷縄引っぱって、その荷縄のさ家内じゅうたぐつく。そして一番前さは鍬(くわ)頭(がしら)、そこの旦那がまたがって、家内中みんなが、
「ヤンサ、どうでございます」
 て言うど、そこの鍬頭は、
「だんだん、のぼります」
 ほう言う習慣だけど。ほうしたらば朝日の昇るごとく、その家の身成がええぐなって倉も建てる。家も大きく建てかえする。銭はどんどんふえてくる。ほしてまた次の年になっど、年とりになって、その行事はじめた。
 家内じゅうはみな荷縄さたぐついて、「ヤンサ」て上げだれば、旦那さま、
「つぶれます、つぶれます」
 て言うたど。何(なえ)だと思ったれば、ほいつさ上手に股がらねもんだから、すっかり落付かねうちに、ヤンサて持ち上げたもんだから、キンタマからみついて、つぶれそうになった。
「いや痛い痛い。つぶれます、つぶれます」
 ほだいしているうちに、何から彼(か)にまで左前になって、あげくの果ては労咳(ろうがい)(肺結核)になってしまって、家中みな滅びてしまったど。いまもその家の跡あっけんども、倉も残っていっけんども、あんまりそういう風な御帛(ごへい)かつぎの迷信ざぁするもんでないど。ドンピンカラリン、スッカラリン。

(集成「米倉小倉」系)
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