68 大岡裁き ― 釜盗みのイザリ ―

 むかしとんとんあったずま。
 ある店で大(おっ)かいお釜盗まっだ。ところがイザリの家にはいつあった。
「お前、おらえんな盗んだでないか」
「いや、おれ盗まね」
「んだて、おらえんなど似っだ」
「似っだて、こいつ元からおらえんなだも」
「お前になの大きい釜ないがったべな」
「いや、仕舞ったなあった」
 何とも仕様なくて、お奉行さまさ訴えた。ところがお奉行さま、「んでは二人とも呼んで来い」て呼ばった。
「これこれ、その方、足わるくて持ち運びできないんだが」
「はい、左様(さよう)でございます」「そうか」「元からお前の家にあったんだか」「はい左様でございます」「うん、そうか、んでは、お前罪も科(とが)もない。元からあったんだらば、お前さ呉れてやっから持って行げはぁ」
 ほうしたれば、イザリ、にこっと笑ってたけぁ、いきなりその大釜かぶったけぁ、カランカラン、カランカランて、いざって行ってしまった。
 ほうしたれば大岡越前守さま、
「この無礼者、持(たが)て行(い)がんねていうものを、呉っでやるて言うたれば持って行った。盗んだのはその方だ。百叩きを申付ける」
 ていうわけで、その月夜に大釜盗んだ、盗人イザリが捕えらっだんだと。ドンピンカラリン、スッカラリン。
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