65 大岡裁き― 嫁と姑 ―/H3>
むかしとんとんあったずま。
やっぱりその頃、姑と嫁と一緒におぼこ産(な)して、お湯浴ばせしてるうち、どっちのおぼこだか分んねくなってしまったんだどはぁ。
「こりゃ、息子だべし、母親だべし、血の道だから似でっどこは似でる」
なんだて分んねくなってはぁ、ほっちだべ、こっちだべて争いなってしまった。ほして、大岡越前守さまさ、
「なんとか、一つ嫁んなと、姑かかんなと、分けてもらいたい」
て言うたんだど。ところが大岡越前守さまも若いもんだから、お産の経験とか何とか疎(うと)かったほで、即答もさんねもんだから、
「しからば、いろいろの手続、取調べもあるから七日後に判決を下すから」
そういう風に言うたんだど。そしてほっちゃ行って調べ、こっちゃ行って調べ何とも分らね。だんだん苦悩の色こくなって来たんだど。
ところが八十才を過ぎた子産(な)させばばぁが一人口を立っていだんだど。ほこ大岡越前守はずうっと、何げなく通って来たらば、聞えるんだど。
「大岡様だて、少し若いもんだから、まだ分らねっだ。嫁のおぼこだか、かかのおぼこだか分らねなて、まだまだよくよく餓鬼ていうもんだ。鳥だらば卵の白身まだ尻さくっついっだみたいなもんだったな。ほだな造作ないっだな。耳から血とってタライさ浮かして、子どもの血と親の血と寄せてみっど、ほの母親の子どもの場合は、血と血がピターッと喰付いてしまうし、違う母親だとすっど血と血が右と左さ、せっせと分れる。かいつして見っど一ぺんで分るのだ。はいつも分らねで青二才がお奉行さまだなて、ちゃんちゃらおかしいごと」
はいつ聞いた大岡越前守は、「はぁ、ええこと聞いた」と、そしてどんどん奉行所さ帰って来て、そしてお膳立てした。
「子ども取換えの件について、吟味いたす。二人とも前に参れ」
て、タライさ水汲ませて、ほして子どもからと母親からと血取ってしたら、やっぱりピターッ、ピターッと喰付く。一方はすっすっと右と左さ分れる。ほして決めて呉(け)だったど。ドンピンカラリン、スッカラリン。
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