64 大岡裁き ― 味噌コガに金 ―南町奉行の大岡越前守というえらいお奉行さまいだんだけど。あるとき、うんと働いて小判いっぱい貯めて、今みたい金庫なてないもんだから、どさ仕舞ったらええがんべなて考えっだ。味噌コガの中さ入っだら、誰にも見らんねべ、そっと味噌コガの中さ隠しったど。したればはいつこそっと見っだ人いだんだど。ほして味噌コガの中さ入っだ勘定していだげんども、心配なもんだから、そっと味噌コガ探ってみたげんど、一枚もないんだけどはぁ。すぱっとみな盗まっだんだど。してお奉行さまさ届け出したんだど。ほうしたれば、奉行さま江戸八百八町のうち、その盗まっだ町内の人全部番所さ集めだんだど。 「ええか、みな、味噌の中さ金つけっどすばらしい匂いがする。なんぼ洗っても洗ってもその匂いざぁ消(け)ねんだ。いまから奉行が、はいつ匂いかぐから、匂いした者は盗んだに相違ない。ええか」 みんなの顔じろっと、大岡さま見だんだど。ほうしたれば、知しゃねふりしてそおっと手ば匂いかいだ者いだんだけど。はいつ、ちらっと見つけた大岡越前守さま、 「こりゃこりゃ、その方だ、なぜあって匂いをかぐ必要ある」 て、一ぺんで押えらっだんだけど。匂いなのすねんだけげんど、そういう風に機転のきぐ人だったど。 >>烏呑爺 目次へ | |