63 栴檀は双葉より芳しむかしむかし、あるどこの百姓屋の軒先さ、毎年毎年燕巣くって、そして子ども育てては帰って行き、また翌年もそこさ飛んできては子育てては帰って行きするんだけど。で、そこのおっつぁんが燕さ言うたんだど。 「お前、毎年毎年、おらえの家で子育て何十年となく育てて行ぐった。何か一つ南方の方から珍らしい土産でも持って来て呉だらええんねが」 て言うたんだど。 ほうしたれば、次の年、木の実食わえて来たんだけど。ほしてほの木の実ば庭さ蒔いだんだど。ところがほの木の実は発芽して、双葉になったればきわめて香ええんだど。いやとても香ええ。いろいろな識者に聞いてみたれば、 「これは栴檀という木だ。栴檀は双葉より芳していうて、もうすでに双葉から香ええもんだ」 こういう風に言うんだど。 「はぁ、ええもの持って来て呉れだな」 て、珍らしい木だこりゃて喜んでいだんだど。ところがおがるに従って蛇ぁ一匹集まり、二匹集まり、あんまり香ええもんだから何だて蛇寄って仕様ない。ほこの旦那も馬鹿でないから悟った。 「ああ、ほうか。南の方にはこういう香のええ木や何やらいっぱいあっけんども、蛇一杯いて、子ども孵えさんねなか」 て、分って、「ほうか、ほうか、分った」て言うて、次の年から燕が巣作るようになって、結局は南の方には蛇とか害鳥とか害虫おって、子ども育てらんねんだなて、おっつぁんが悟ったんだけど。ドンピンカラリン、スッカラリン。 >>烏呑爺 目次へ | |