60 朝鮮人参

 むかしとんとんあったずま。
 むかし高句麗に親孝行な息子いだんだけど。ところがやっぱりおとうさんが病気で、なぜかして治したい、こういう風に思って占師さ行ってみたら、 「これは仲々大変だ。お前のおとうさんを助けるためには、お前の子どもを犠牲にしなくてはなんね。ええか。これが出来っこんだらば、お前のおとうさんが治っす、そうでないとすれば、お前のおとうさんが逝くなる、出来っか」 「はい、どういうことだべ」 「他でもないげんど、お前の子どもを釜茹でして、ぐらぐら煮て、その煎じた、煎じ汁をおとうさんに飲ませっどたちまちええぐなる。それ以外にお前のおとうさんを助ける道はない」  こういう風に言うたんだど。考えた、 「あぁ、こりゃ困ったごんだ。んだげんども、どちらも生命に関することだげんども、おっつぁんの生命には代えらんね。よし、仕方ない」  て言うわけで、遊んでいる自分の子どもの腕、むんずりつかんで、そしてグラグラ煮えたぎったその釜の中さ、ざんぶり入れて、鬼になってはいつ蓋してしまった。ほしてグラグラ煮つめて、はいつば父親さ呑ませたれば、たちまち元気になった。元気になったげんども、 「ああ、息子を殺してしまった。困ったごんだ」  て、しょんぼりしてたれば、何だか表の方から子どもの唄い声がきこえてくる。唄うたって帰って来た。見たれば五体満足で表から帰って来た。したらばさっきだ、子どもだと思って釜の中さ茹でたの何だったべていうわけで、ちょうど子どもぐらいも大きい子どもの格好した、それが朝鮮人参なんだけど。どのくらい親孝行だか神さまが試したんだけど。  ほれから、朝鮮人参ていうのは、なくなる生命も助かるくらい効く。すばらしい高貴な薬だていうことになったど。ドンピンカラリン、スッカラリン。
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