59 塞翁が馬

 むかしむかし、宋の国で塞翁という人がいて、すばらしい馬買って来たんだけど。んでみんな、
「ああ、すばらしい馬だねえ、ええ馬だなえ」
 て、みんなから言わっで、
「ええ馬、安く買ったもんだ」
 なているうち、その馬いねぐなってしまったんだど。ほして占師さ行って聞いてみたれば、
「また、よいこともあるでしょう」
 て言うたんだど、ほの占師。
 ほだいしているうち、パカパカ、パカパカて馬の足音すっから、にぎやかなようだと思って出てみたれば、すばらしい馬、男馬―買った馬、女馬なもんだったから―追かけて来たんだど。ほして買わねったて、馬二匹になってしまったんだどはぁ。
「いや、おめでとうございます。おめでとうございます」
 なて、みんな言うてるうち、その占師ぁ、
「また悪いこともあるでしょう」
 て言うたんだど。ほうしたれば、その馬さのってるうち、塞翁ていう人が、馬からひっぽろき落ちで、すばらしい怪我したんだど。ほして跋(びっこ)になったんだど。
 ほうしたればその占師はまた言うたんだど。
「また、よいこともあるでしょう」
 て言うたんだど。ほだいしてるうちに、また戦争が始まった。次から次とみな兵隊に徴発さっで行って、五体満足な者はみな民兵として引張らっだんだど。んだげんども、塞翁は馬からひっぽろぎ落っで、足びっこになったばっかりで戦(いく)ささ行かねでしまったんだど。ところがその戦は「戦い利あらず」して負け戦さで、みな殺しさっでしまったんだけど。ほんでびっこになったばっかりで生命拾いして、まず天寿を全うした。んだから、ええことあったり悪れごどあったり、悪れことあったりええことあったりする。そのことを『人間万事塞翁が馬』なて、支那では言うたんだけど。日本の国でも古歌にあるとおり、「裏を見せ、表を見せて散るもみじ」なて唄った人いて、裏目出たり、表目出たり、ええことばっかりないていうこと支那では諺で現わしったんだけど。ドンピンカラリン、スッカラリン。
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