58 蟹の恩返しむかしとんとんあったずま。あるどこに、餓鬼べら一生懸命、蟹せめていじめっだんだけど。ほこさ通りかかったお寺さま見っだけぁ、 「お前だ、むつこい。ほだな蟹いじめるもんでない。罪も科もない蟹ば、ほだいいじめるもんでない」 ほして、 「どれどれ、おれさこの蟹ゆずってけろはぁ」 て言うて、子どもから買ってその蟹、放してやんべと思ってお寺の池さ放すべと思ったれば、腹の中さいっぱい子ども抱いっだんだけど。 「ああ、よしよし、こんで大丈夫だ」 て言うわけで、ほこさ放してやったわけだ。ところが、それから何年か後、その部落が大火になった。次から次へと焼けて行った。そして猛火に包まっだ。ところがそのお寺さんだけは煙り一つ出ない。何だかブクブク、ブクブク泡が出る。 「ふしぎなこともあるもんだ」 て、ほして、なして泡ぶくぶく出て、あの寺ばり残ったべ。部落ほとんど火の帳(とばり)におおわれるようになって全焼した。お寺一軒だけが焼け残った。次の日行って見たれば、何万匹となく、その蟹が全部、お寺の御堂から庫裏からかけて隙間なく蟹がはってで、蟹がブクブク、ブクブク出しった泡なんだけど。ほしてそのお寺、子どもから助けてもらったお礼に、火事から救ってくれだんだど。んで、今でもそこのお寺のことを「蟹満寺」ていうなだけど。ドンピンカラリン、スッカラリン。 (集成「蟹報恩」一〇四B) | >>烏呑爺 目次へ | |