52 夢見ばなし ― 大唐傘とクジラ ―

 むかしとんとんあったんだけど。
 むかしは長男が家さいて、舎弟コぁ他さ出はって行かんなねがったんだど。 よっぽど旦那衆でないど、分家などもらわんねし、分家などすっど本家の方が今まで肩を並べっだ人よりずっと、 こんど身成なくなるもんだから、嫌ってなるべく分家さ出さねがったんだど。んだもんだから、ある所の息子が唐傘屋さ番頭行ったんだど。 ほして一生懸命師匠さんの言うこときいて稼いでいだんだど。
 あるとき、外さ大唐傘乾せて言わっで、天気のええ日、外さ油塗って大唐傘乾しった。 ほうしたれば風もないとき乾しったんだげんど、急に風が出てきた。ごおっと風吹いて来た。 飛ばしては、こりゃ旦那さまさ申訳ないと思って、いきなりその大きい唐傘さ手(た)ぐついた。 ほうしたればファーと傘もろとも吹き上げらっではぁ、宙天高くぶち上ってしまったんだど。
「あらら、こりゃ困ったもんだ。こだい上さ行ぐ、こだい上さ行ぐ」
 と思ったら、海の上さ行ってしまった。
「なんだ、こりゃ。ここは海っだ。海ン中など落っだら、アップアップなって死んでしまわんなねっだな。困ったこと始まったもんだ」
 と思ったれば、島見えるんだけど。
「あぁ、島ある。あそこさ落ちらんなね」
 と思ったれば、だんだえ風ぁ少くなってほこさずうっと落下傘みたいに降りて行った。ところが、島だと思ったら、はいつはクジラだったんだど。ほうしたけぁ、うまいもの上から降(ふ)って来たと思って、クジラ、大きい口あけて待ってだんだけどはぁ。ほうして唐傘屋の番頭ば、パックリと呑んでしまったんだど。
「よし、ここで死んでいらんね」
 懐さぐってみたれば唐傘屋の番頭なもんだから、小刀入っていだっけど。切出し。その小刀で、腹の中、一生懸命切ったんだど。 ワッショ、ワッショって。ほしたればだんだん明るくなったんだど。「ここだ、ここだ」
 て、こっから一つ出はって行かんなねと思って、頭で一生懸命、ほの明るくなった方ばデンヅキ、デンヅキ出はって行ったど。 したらばガタラン、ガタランなて、音したんだど。ほうしたけぁ、唐傘屋の師匠はんに、
「こら、この野郎、ねぼけんな」
 なて、頭スポンと叩がっだなて。したら寝てて夢見っだんだけど。ドンピンカラリン、スッカラリン。
>>烏呑爺 目次へ