51 かおすと狐むかしとんとんあったずま。ある村にとっても雑魚せめの上手なかおすいだんだけど。ほして狐の御所に狐いだわけだ。 ところがその狐がなぜかして、ほのかおすのせめて来た雑魚御馳走なっだいて思っていだんだけど。 ほうしたればあるとき、狐とかおす、ぱたっと行き会ったんだど。ほして狐から話かけだんだど。 「おい、かおすどの、かおすどの、こりゃこだい寒くて、まず夜は長いし、寒いし、退屈だから、 どうだ招ばっだり、招んだりすっこと、すねがい」 て言うたんだど。純真なかおすは何も裏のあること知しゃねで、ほれ、 「はぁ、はいつぁええがんべな。狐どの、顔もひろいし、ほっつだ。こっつだ。て歩くべし、おら川中で雑魚せめしか知しゃねげんども、ほだいしてもらえば、おれも大変たのしみっだげんどなぁ」 なて話は急にまとまったんだど。 「こりゃ、うまい具合行った」 て、狐は考えていたんだど。 「んだらまず、おれどこ招(よ)べ」 ほうすっど、かおすはすぐにザブザブ川の中さ入って行って、ドンジョだの鮒だの鯉だのって、いっぱいせめて来て、狐コば招んだんだど。ほうして行ってみたれば、なんとこりゃ、お汁も雑魚、お皿も雑魚、お平も雑魚、お飯(まま)も雑魚、みな雑魚。お膳についたものみな雑魚。んだからあんまり魚余計につける料理ばなの「かおすの料理みたいだ」なて、ここらで話してるげんど、何もかにもみな雑魚、はいつで狐コ喜んで、 「ああ、うまいがった、うまいがった、こんどおれ御馳走すっから、明日(あした)か明後日(あさって)の晩来いや」 て言うて来たんだど。 次の日になっても狐はなんぼ待ってでも、御馳走すっから来いて、来ねがったど。あんまり招びに来ねもんだから、かおすはこそりこそりと行ってみたれば、何にも用意していねんだけど。ほして、 「狐どの、狐どの、おれさ何御馳走して呉(け)んなだ」 て聞いたれば、こじらねふりして、どこ吹く風なんだど。ほして次の日もまたかおす行って、 「今晩だら、御馳走すんべから」 て行っても、まだ食せねんだど。ほしてはぁ、短腹(たんぱら)起してはぁ、かおすは戻って行ったんだどはぁ。ほして、 「ははぁ、雑魚食(く)だくて、おれどこだましたんだ、狐野郎。よしこんどおれが仇(かたき)とって呉らんなね」 と思っていだんだど。ほだいしているうち、今度また狐ピョコピョコ来て、 「いや、君ば本当に招ぶ勘定だげんど、雑魚せめっだいげんど、雑魚せめ方知しゃねから、雑魚せめ教えろや」 て言うたんだど。ははぁ、いよいよもって来たなと思って、こんどはかおすは、 「ええ、教える。ほだな雑魚せめなんて、造作ねなだ。寒い晩、よくよく冷えっどき、氷割って、ほこさ尻尾突込んで置くんだ。んだど雑魚はいっちゃ、ほれ、すこだま手繰(たぐり)ついて、いやていうほど手繰(たぐ)付(つ)っから、ちょっと上げっど、いや、軽いうちなど駄目だ。ムリムリていうほど…」 ほして、ほれぁ、狐は冷える夜、 「こんどは本気なて、雑魚せめて呉(け)らんなね、今まで尻尾(しりぽえ)で取っていたのか、簡単、簡単」 ほして、うんと寒いとき、行って見たげんどなかなか孔あかね、頭のずる賢い狐のごんだから、氷の上さおしっこやらかした。ほしたれば丸っこく孔開いた。自分の尻尾やっと入るくらい開いた。ほしてそこさ、尻尾ちょいちょいっ入っでやって、ずうっと我慢しった。して、まず待てでいらんねから、つうと尻尾上げてみたれば、むやみ軽こい。 「なんだまだ大物掛んねな、よし、いまちいとおもってから」 だんだん重たくなってきた。 「うん、よっぽど重たくなって来た。んだげんど、かおすは言うた。やっと立たんなねほどだと大物だて言うたから、いまつうと我慢すんべ」 て、我慢したんだど。 狐コは欲ばりなもんだから、夜中じゅう我慢して、ほして明るくなったすぁ、人など来っどなんねと思って、今度ぁ尻尾引張ったど。重たくて重たくて、 「こりゃ、大物かかった」 て、上げんべと思ったげんど、今度ぁ抜けて来ねがったど。なんぼ大きな雑魚掛ったんだど思って、喜んでいたげんど、こんどは喜ぶどこでないんだど。一生懸命引張ってもビクともしねんだどはぁ。凍(こお)りついてしまったんだどはぁ。尻尾。狐は困ってしまって、雑魚なの抜けだてええから、尻尾だけ引張んなねと思って青くなり白くなり、本気になって青筋立てて引張ったげんども、なんとも抜けて来ね。ほだいしているうちに村人来て、 「なんだべ、なんだべ、あだんどこへ狐コいたりゃ、わあ尻尾凍(し)みて、取らんねぐなっていた。どれどれ、狐コいた」 なて、村人にみんなして押えらっで、せめらっでしまったけど。んだからあんまり人を騙したり、欲深くしたりさんなねもんだけど。ドンピンカラリン、スッカラリン。 |
(集成「川獺と狐」三) |
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