43 阿呆陀羅経

 お姑さんいた家で嫁さんもらったと。その時親父さんもいだったげんど、嫁は中々利発な娘であったし、姑はからやかましいような姑で、お飯こわいの、お汁は塩っぱいごんだのと、よく議論ばりしていっかったと。そうすっど、家の親父は見るに見兼ねて、んだげんども何か文句言うと、却ってめんどうになっど思って、
「俺はな、皆唄など唄うげんども、阿呆陀羅経ざぁ好きでよ」
 と言うたと。
「なじょなことや、阿呆陀羅経ざぁ」
「今の世の中、世は逆さまで、石が流れて木の葉が沈む。嫁は姑で、姑は嫁で、されど変らぬ姑は嫁の古物じゃ。デッカラボッコ・ボッコ」
 なんているがったと。なえだか分ったような分んねようなもんだけと。嫁は川さよく行くげんどもやっぱり石は沈んで木の葉は流れるのに、親父は変なこと言う。へえ、一体なんのことだべと、姑も嫁も阿呆陀羅経のこと考えて、喧嘩などするすきなく一生過ぎてしまったと。どーびんと。

>>とーびんと 工藤六兵衛翁の昔話(四) 目次へ